第51話 05 復活の代償
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どうせ森の中には罠がいくつも仕掛けてあるし、きっとそれで奴らの足止めはできるはずだ。あとは、気絶したところをカゴに放り込んで、夢子が帰ってくるのを待てばいい。――そう思いながら、ホウ・ペイはぼそっと呟いた。
「……でも、なんだろうな、なんか俺……犯罪者になった気分だぞ。ま、いっか。悪くないかも。」
少しだけ肩をすくめて苦笑したあと、しばらく待機。ちょうどいいタイミングだと判断し、さっき聞こえた罠の作動音――それは南側からだった――を頼りに、彼は森の中を軽快に歩き出した。
さすがに何度も歩き回っているだけあって、森の地形は手に取るように把握している。罠にかかった者たちの元に辿り着くと、黒い布でぐるぐる巻きにされた袋が地面に転がっていた。中に何人いるのかもわからない。
ホウ・ペイは左手で小さな手押し車を引き寄せ、袋ごとその上に載せた。
「……重っ。これ押すの、本当にしんどいんだが。あー、だったら夢子に浮遊魔法の使い方でも教わっときゃよかった……」
汗を拭いながら、必死に洞窟まで運び戻った。やっとの思いで洞窟内に入ると、袋を開け、中の人間たちを転がすようにして牢に入れる。
顔が見えた瞬間、ホウ・ペイの中で何かがざわめいた。どこかで見たことのある顔。記憶の底がゆっくりと波立ち始めた。
ゴロンと転がった拍子に、二人の男は意識を取り戻した。
「ここは……どこだ……?」と、痩せた男が震える声で呟く。
「たぶん……あの魔女の縄張りだ。俺たち、閉じ込められちまったんだよ。」もう一人の男も同じく痩せ型で、そう答えた。
「や、やばい……閉じ込められたってことは……殺される? 俺、聞いたことあるんだ、あの魔女、人間をスープにして煮るって……!」
ホウ・ペイがゆっくり口を開いた。
「……正直な話、俺も最初はそう思ってた。でもそれは全部、噂にすぎないんだよ。現実とはまるで違う。まあ、君たちはすぐに記憶を消されるから、何を言っても無駄かもしれないけどな。あのポンコツ魔女、もうすぐ戻ってくるし」
「……ホウ・ペイ!?」
突然、牢の中の男が目を見開き、声を張り上げた。
ホウ・ペイも驚いたように眉を上げる。
「え……お前、俺の名前を……? まさか、前に会ったことが……? いや、でも確かに……どこかで見たような顔……」
もう一人の男も続けて言った。
「やっぱり、お前だったか! 子どもの頃、よく一緒に遊んでたじゃないか!」
ホウ・ペイの表情が少しずつ変わっていく。記憶の扉がゆっくりと開かれ、やがて確信に変わる――だが、喜びや懐かしさはそこにはなかった。再会した友人に向けるべき表情ではない、冷めた目だった。
「……どうして、お前らがここに?」
声には鋭さが混じっていた。
「家で引きこもってた連中だったよな。どうして今さら、冒険者になろうなんて思ったんだ?」
少し間を置いて、ひとりが答えた。
「仕方なかったんだよ。ほら、お前も知ってるだろ? この辺りに“不死の魔女”がいるって話。……あの魔女を捕まえれば、莫大な懸賞金が手に入るって噂されてて……」
ホウ・ペイは目を伏せて、静かに首を振った。
「……興味ないね。」
そう言い残し、彼は背を向けようとした。
だが、背後から飛び込んできた言葉が、彼の動きを止めた。
「でも……お前、知らないのか? あの魔女の本当の価値……彼女は、“死者を蘇らせる”ことができるんだよ。」
ホウ・ペイの足がピタリと止まり、背筋に冷たい何かが走った。
「……もっと詳しく、話してくれ。」
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