第50話 13 心の中だけにある想い
ホウ・ペイは、顔を強張らせながら慌てて言い訳を始めた。
「ち、違うんです、本当にあなたが思ってるようなことじゃなくて……彼女は、彼女はすごくいい人なんです。いや、まぁ確かにちょっと口が悪かったり、冷たいところもあるけど……でも、絶対に人を傷つけるような人じゃないです!」
声が少し上ずっていたが、彼の目は真剣だった。
「今日だって、あの薬を作るのにずっと頑張ってたんです。昼ごはんもまともに食べないで……だから、お願いです、彼女のことは誰にも言わないでください!」
すると、老人はふっと笑みを浮かべ、穏やかにこう言った。
「なるほど……君と彼女は、ただの主従関係ってわけじゃなさそうだな。」
老人は湯気の立つ茶をそっと口に運びながら、目を細めた。
「もしも、私が誰かに夢子さんのことを言うつもりだったなら、もう五年前にとっくに言っていたさ。」
彼の声には、確かな温かさと信頼が込められていた。
「私は知っているよ、夢子さんがいい人だってことを。彼女の薬は、市場で売られてるものよりも安くて、ずっと効くんだ。それに……彼女の“演技”も、あまり上手くないからね。」
ホウ・ペイはぽかんとした。
「演技……?」
「そう、ある時ね、老婆のふりをして薬を配りに来たことがあったんだけど……声はうまく作ってたけど、所作が完全に若者だったんだよ。もう、こっちは笑いを堪えるのに必死だったよ。」
老人は喉を鳴らして笑い、思い出すたびに顔をほころばせた。
ホウ・ペイは黙り込んだ。彼の中で、何かがゆっくりとほどけていくようだった。
「……でも、あなたは彼女にそれを話してないんですね?」
老人はゆっくりと首を振った。
「言うわけがないさ。彼女にとってはそれが重荷になるだけだから。」
目を落としながら、老人は深い声で続けた。
「夢子さんは、現実の世界からも、周囲の人々からも距離を置いて、ずっとひとりで生きてきたんだ。強く見えるけど……あの子の中には、孤独が積もってる。」
「私はもう長くない。もし私が今さら彼女と親しくなって、ほんの数年で死んでしまったら……それこそ彼女の心に傷を残すだろう。」
そして、老人の目がホウ・ペイをまっすぐ捉えた。
「少年、君は——彼女の“仲間”なのかい? あるいは、彼女と過ごす時間が好きか?」
ホウ・ペイは言葉に詰まり、しばらく黙っていた。そして小さく、しかし確かな声で答えた。
「……僕が彼女の“仲間”なのかどうかはわかりません。でも……彼女と一緒に過ごす時間は、嫌いじゃないです。」
老人はにっこりと微笑み、立ち上がって扉を開けた。
外の風が部屋に吹き込み、森の香りが優しく漂った。
「それなら、どうか願うよ。君が答えを見つけられることを。あの子は……あまりにも長い間、ひとりぼっちだった。彼女の過去は知らないが、誰かがそばにいるだけで、心は救われる。」
「願わくば、君がその“誰か”でありますように。」
……
小屋を後にし、ホウ・ペイは森の中を静かに歩いた。
いつもの洞窟へと戻る途中、彼の耳にはまだ、老人の優しい声が残響のように響いていた。
——「僕は……彼女の仲間なのだろうか?」




