第50話 08 『不死の魔女と同居生活』
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不思議な偶然から始まった共同生活。
気がつけば、二人は同じ空間で、同じ時間を分け合う日々を過ごしていた。
「じゃあ、まず最初にルールを説明しておくわ。」
夢子は淡々と告げた。洞窟の中、青白く輝く水晶の光が彼女のマントを照らし、その影が壁に揺れている。
「一つ目、私が寝ている時は、絶対に音を立てないこと。針が落ちる音でも、私は聞き逃さないわ。」
その言葉は穏やかに聞こえるが、ホウ・ペイは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「二つ目、私が言ったことには、文句ひとつ言わず、即座に従うこと。反論も不満も、許さない。」
「それって……もう完全に奴隷扱いじゃないか!俺にも人権があるぞ、人権が——」
反射的に口にしたホウ・ペイの抗議は、夢子のひと睨みであっさりと封じられた。
「安心しなさい。今言った二つさえ守れば、それ以外のことには干渉しないわ。自由時間に何をしようと構わない。釣りでも詩でも、勝手にすればいい。」
夢子は一瞬だけ視線を外し、けれどすぐに鋭い眼差しで言葉を重ねた。
「ただし——もしも私に害を及ぼそうという気配を少しでも感じたら、その時は……容赦しない。」
「だ、大丈夫大丈夫!そんなつもり全くないから!」
ホウ・ペイは両手をぶんぶん振って強調した。
「で、ちなみに……いつになったら俺はここから出られるの?」
「それは状況次第よ。あなたの記憶をきれいに消せたら、その時に解放してあげる。」
夢子はさらりと答える。
ホウ・ペイはふっと身を乗り出し、疑わしげな顔でにやりと笑った。
「まさかさ、本当は俺をここに引き留めたくて、記憶消去が失敗したって嘘をついてるんじゃないの?……まあ、冗談だよ。君って、そんな暇人じゃなさそうだしね。」
「それに、前に言ってたよね?『私は誰にも頼らない』って。」
夢子は無言で戸棚を開き、一枚の羊皮紙を取り出した。
「質問は終わり?じゃあ今から仕事をお願いするわ。」
「おっ、ついに俺の出番だな?で、なにすればいい?」
「買い出し。」
「えっ?」
「前は私自身が変装してやってたけど、街中で誰かにぶつかったりすると、姿が解ける可能性があって危険だったの。だから、あなたがいれば安心ね。」
「お金のことは心配いらないわ。資金には困ってないから。」
そう言って、夢子は羊皮紙を開いた。
それはまるで巻物のように長く、地面にまで垂れ下がった。
「ちょっ……冗談でしょ!?これ全部俺に買わせる気!?」
ホウ・ペイは目を疑いながら叫んだ。
「俺は人間だぞ!?牛じゃないんだ!こんな荷物、死ぬって!」
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