第50話 06 『どうか、明日も君の記憶を抱いて目覚めて』
「ねえ……お願いがあるんだけど。」
ホウ・ペイはそっと手を上げ、真剣な眼差しで夢子を見つめた。「気絶して記憶を消された人たちを、いちばん近い村まで運んでくれるかな?」
その声には、わずかに願うような優しさが漂い、無垢な信頼が宿っている。
夢子は眉をピクリと上げ、まるでこの問いを待っていたかのようにゆっくりと振り返った。夜風を切るような静かな声で答える。
「いいわ……でも、私も一緒に行く。」
その声に一瞬鋭い影が差し込み、マントの裾がひらりと揺れる。「もし村人に一言でも漏らしたら……すぐに意識を奪う。それに、その場にいた全員の記憶、あなたの分も全部消してあげるから。」
彼女の言葉は冷たく、まるで儀式のように淡々と響いた。
「わ、分かったよ!」ホウ・ペイはビクリと体を震わせ、手を振って後ずさる。「お願いだから、急にそんな怖い顔しないでよ……さっきまで優しく笑ってたじゃん、どうして急に別人みたいに?」
首をかしげながら、無垢な声で続けた。「前には、あの人たちを道端に放り出すって言ってたじゃない?」
夢子は軽く鼻を鳴らし、その瞳にわずかな感情が揺れたものの、表情を崩さず冷静に言った。
「そうよ、本当はそうしようと思ってた……でも、たまには違う方法も試してみるものよ。意外な“発見”があるかもしれないし。」
彼女は細く微笑み、続けた。「ただし、今回限りよ。誤解しないで。頻繁に顔を出すつもりはないから。」
「やっぱり、あなたっていい人だね。」ホウ・ペイはにっこりと春の陽射しのように温かく笑った。「私の影響なのかな?」
「何を勘違いしてるのよ……」夢子は呆れた様子で目をそらした。「一時の気まぐれ。それだけよ。あなたが私の考えを変えるほど重要だなんて……そんな人、他にいないわ。」
その言葉は冷たい刃のように鋭く、一方で否定を含んでいない――ただ事実を突きつけているだけだった。
二人は静かに並んで、意識不明の者たちを慎重に村の入口まで運んでいった。夜風を受けて二人の影は長く伸び、ホウ・ペイの背中には妙な確かさがあった。
帰り道、ホウ・ペイが口を開いた。
「ねえ?さっきまで私に襲いかかろうとしないかって怖がってたのに、今は平気なの?」
彼は眉を上げ、からかうように笑っている。
夢子は口元に薄く笑みを浮かべ、すぐに返答した。
「あなた、何で私を襲うつもりなの?地面から木の棒拾ってきて、突き刺すの?」
ホウ・ペイは思わず吹き出した。
「推理合ってる……でもさ、まさかその後で自分が言ったことを自分に返されるとは思わなかったよ?」
二人は一緒に、再び洞窟の奥へと歩みを進めた。
「どうやら、ここでお別れみたいね。」侯佩は笼の前でズボンを払いながら呟いた。「でも……もう私を気絶させなくてもいいかな?痛いの、苦手だからさ。」
彼は穏やかに笑顔を作り、声を少し落とした。
「眠くなったら、私が寝ちゃったら……その時でいいから。記憶、消してもいいよ?でも……いつか、少しでも思い出せるといいな。」
夢子は空中で指を止め、無意識に微笑んだ。
「は?復讐しに来るの?」彼女の声は鋭さを失っていた。
侯佩は肩をすくめ、穏やかに返した。
「何言ってるの?ただ、こんな面白い思い出を忘れたくないだけ――それだけだよ。もちろん、あなたのことも。」
彼はケーキのように優しい微笑を浮かべた。
夢子のまつげがわずかに震えた。彼女は反射的に視線をそらし、声が自然と高くなった。
「もう…かっこつけないで、さっさと寝な!」
「うん、じゃあ……おやすみなさい、名前も知らない魔女さん。」
侯佩は寝息とともに目を閉じた。
夢子はそばに佇み、顔を下に向けて唇をかすかに動かした。
「ええ……またね。」
彼女はいつものように、記憶を消す仕草を繰り返した。そのとき……指の動きが、ほんの一瞬、遅れた。
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