第50話 05 ケーキのように甘くて優しい微笑み
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「ケーキの魔法?何それ、意味わかんない。」
夢子は眉をひそめ、まるでバカにされたような顔で侯佩を睨みつけた。
「冒険者のくせに、なんでそんな魔法を覚えてるの?どうせ檻を開けさせて、奇襲するつもりなんでしょう?」
彼女の声には疑いと警戒がこもっていて、いつでも魔法を撃てそうな気配が漂っていた。
ホウ・ペイは両手を上げておどけたように笑いながら、心底めんどくさそうに言った。
「いやいや、僕のこの顔見て、それでもそんな策略家に見える?ほんとに、ただお腹が空いてるだけなんだよ。変なこと考えすぎだって。それにさ、僕が何で襲うの?地面に落ちてる木の枝で突くとか?ありえないでしょ?材料だけ全部入れてくれたら、それでいいから。信じてみてよ。」
夢子はじっとホウ・ペイの顔を見つめた。その目は、まるで透視でもしているかのように鋭く、しばらくの沈黙が漂った。
「……バカみたい。」
そうぼやきながらも、彼女はやれやれといった様子で材料をひとまとめにして、檻の中へ投げ込んだ。砂糖、塩、よく分からないメーカーの小麦粉、そして少し古びたフルーツ缶詰。まさに“ギリギリ”のラインナップだった。
「よし、それじゃあ僕の魔法、見せてあげよう。」
ホウ・ペイは突然、神々しいほど真剣な顔になり、背筋をピンと伸ばすと、両手を広げて空気を抱くように構えた。
「ケーキの神よ!我に力を与えたまえ!今ここにある材料をひとつにまとめ、ふわふわのスポンジに、三層のクリーム、外側には雪のようなアイシングを。そして天に祝福されしフルーツをトッピングとして……香り高く、甘く、完璧なケーキを創り給え!!」
その場の空気が一瞬、凍りついた。
夢子は呆れ顔で額を押さえながら言った。
「何を一人で盛り上がってるのよ……で、ケーキは?頭のネジが飛んでるとしか思えないけど。まあ、そう考えると、さっきからの妙な行動にも納得いくけどね。」
しかし、ホウ・ペイはにやりと自信たっぷりに首を振った。
「ケーキの力を信じて。」
その言葉が落ちた瞬間——
檻の中で材料がふわりと浮かび上がり、柔らかなオレンジ色の光に包まれながら、まるで魔法陣の中心に引き寄せられるように混ざり合っていく。空気に甘い香りが満ち、まばゆい光の中から、見事なケーキが現れた。
それは三層のクリームに包まれ、外には雪のように繊細な砂糖の霜、上には宝石のように色鮮やかなフルーツが並んでいた。
「……嘘でしょう?」
夢子は小さくつぶやきながら、その美しさに思わず目を奪われた。
彼女は手をひらりと振って魔法でケーキを半分に切り、一切れを宙に浮かせて自分の手元へと引き寄せた。そして、ひとくち——
ふわふわのスポンジに濃厚なクリーム、甘酸っぱい果実の香りと瑞々しさが口いっぱいに広がった。
「……意外と……美味しいじゃない。」
ホウ・ペイは胸を張って笑った。
「言ったでしょ?ケーキの力は、裏切らないんだよ。」
夢子はついに吹き出して、肩を震わせて笑いながら答えた。
「ケーキの力って……なにそれ、馬鹿みたい。」
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