第50話 03 変な冒険者
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夢子はその言葉を聞いた瞬間、まるで雷に打たれたかのように表情を強張らせた。
「……あなた、本当に“不死の魔女”を知らないの?」
驚きと困惑が入り混じった声が夜気に溶けるように響く。
若い冒険者は首を傾げ、どこか申し訳なさそうに笑って答えた。
「うーん……知らないっす。新人なもので、まだそういう伝説とかには詳しくなくて。でもその魔女って、この辺に出るんですか?」
「名前からして、めちゃくちゃ恐ろしい魔女っぽいですけど。“不死の魔女”ってことは、もう何百年も生きてるんですよね?だったら、今頃は腰の曲がったシワシワのおばあちゃんになってるんじゃないですか?」
その言葉に、夢子の額にはっきりと青筋が浮かんだ。
「……左へ行けば出口よ。」
彼女は必死に怒りを抑えながら、冷たい声で告げた。
「ありがとうございます、おばあさん!」と少年は無邪気に礼を言った後、ふと気になったように訊ねた。
「でもあの魔女、手配書では若い女性に見えたような……まさか、美しい少女だったりして?」
その一言で、夢子のこめかみがピクリと跳ねた。だが彼女はまだ爆発しない。我慢に我慢を重ねる。
「どう考えてもありえないっしょ。」冒険者は笑いながら続ける。「だってさ、伝説では120年以上は生きてるって話だし?普通に考えたら、もう足元ふらふらのボケボケのおばあちゃんでしょ。あ、いやいや、もちろんあなたとは全然違いますよ!おばあさんはシャキッとしてるし!」
夢子の顔が一瞬で真っ赤になり、怒りが頂点に達した。
「こいつ……『私が年寄り』ってとこはまだ我慢した。でもな……『ボケてる』って誰が言ったああああああああああああ!!」
彼女の姿が一瞬で変化し、老婆の幻影は霧のように消え、漆黒のローブを纏い、銀色の髪が月明かりに揺れる“魔女・夢子”の本来の姿があらわになった。
「えっ、ええええ!?そんなに怒るとは思わなかったっす……!」
若者は慌てて後ずさりしながら腰に手を伸ばした——が、そこには何もない。
「しまった……武器持ってなかったんだっけ……!」
次の瞬間、夢子が放った魔法の光が彼の胸元を貫き、彼はその場に崩れ落ちた。
だが——
彼は意外にもすぐに目を覚ました。
意識が戻ると、彼は宙に浮かびながら、魔法の力で引きずられ、どこかの洞窟へと連れて行かれていた。そして気づいた時には、半透明の魔力で作られた牢の中に閉じ込められていた。
「た、助けてー!助けてくれーっ!!」
「無駄よ。」夢子は静かに言い放つ。「ここでは、誰にもあなたの声は届かない。」
「おいおいおい……そのセリフ、完全に悪役のやつじゃんか!」
「まさか……俺を煮て食べるとか?それとも薬の材料にでもするつもり……?」
「はぁ? 私がそんな人喰い魔女に見える?」
夢子は顔をしかめ、腕を組んでふてくされ気味に言った。
「年寄り扱いされた上に人喰い呼ばわり……記憶消去の時に、ちょっと手荒くしてやろうかしら。」
その瞬間、冒険者はぽんっと手を叩き、急に明るくなった。
「あ、そうなんだ!つまり俺、殺されないんだよね?よかった~、それなら安心!」
「お前……この状況でなんでそんなに余裕なのよ!?牢屋に入ってるって自覚ある!?」
夢子が呆れたように叫ぶと、少年はケロッとした笑顔で言った。
「だってさ、魔女さん、思ったより全然きれいだし。怖いって感じしないんだもん。」
「……だまれっ!!」
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