第50話 01 「月影に揺れる記憶の魔法」
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「よし、これで全部完了。」
夢子はそっと両手を叩き、指先が空気をなぞると、それはまるで儀式の終わりを告げる呪文のようだった。彼女の姿は蒼白な月光に照らされ、まるで夜の帳に浮かぶ幽かな影のように揺れている。そよ風が通り過ぎ、衣の裾を静かに舞い上げ、その布はまるで時の囁きを抱きながら、夜風の中で静かに歌っていた。
彼女が纏っているのは、古典的な中世の魔女装束。基調となるのは深い群青と黒の混ざり合う色——まるで光を吸い込むような闇の海のよう。そして所々に苔や蔦のような深緑が、襟元、袖口、裾にかけて静かに這い寄る。そこには古めかしい刺繍が施されており、色あせたものもあれば、縫い目が新しく不揃いなものもあり、それらの大半は魔法陣のような複雑な図案だった。ただ一つ、胸元には少女の姿が静かに立っており、それはまるで彼女だけの密やかで特別な印だった。
だが最も目を引くのは、地面に届くほど長いマント。内側は薄い灰色の絹で仕立てられ、夜霧のように柔らかく、外側は黄昏そのものを織り込んだような黒藍のベルベット。彼女が一歩動くたびに、マントが静かに波打ち、まるで霧の海を滑る黒い羽根のようだった。フードは深く、顔の大半を覆い隠し、月光のもとには銀灰色の髪がわずかに光を返していた。
胸には緑墨色のコルセットを巻き、暗い銀の留め具で肩から腰へとしっかりと締められている。その裁断は鋭くも優雅で、彼女の輪郭を際立たせていた。膝まで届くブーツは黒檀のような革で作られ、擦り切れた跡が長い旅の痕跡を物語っている。その側面には黒いカラスの羽根が一本、斜めに差し込まれ、夜の闇に静かに揺れていた——まるで奇妙な紋章のように。
彼女は月の冷たい光の下に立ち、足元に倒れた者たちを静かに見下ろしていた。その姿はまるで、黒夜の女王が静かなる儀式を執り行っているかのようだった。
「さあ、記憶を消しましょうか。」
夢子は小さく囁きながら、そっと一人の額に指を置いた。淡く青い光が指先から溢れ出し、接触点から記憶の波紋が広がっていく。彼女の瞳はやや遠くを見つめるように細められ、まるで意識の海の奥底に沈む記憶の断片を静かに覗き込んでいた。
赤子の頃——泣き声と母親のぼんやりした面影。少年の頃——机の上の消しゴム、窓の外で鳴く夏の蝉。そして彼らがこの森に足を踏み入れた、その一瞬の好奇と戸惑い——すべてが走馬灯のように彼女の中を通り過ぎていった。
「見つけた……森に入った記憶。では、『カット』。」
夢子は低く囁き、指先をひねる。それはまるで鋏で記憶の糸を断つように、選ばれた記憶は空中で灰へと変わり、風に乗って舞い上がって消えていく——もう二度と戻らぬ欠片となって。
「これで……大丈夫。」
夢子はすっと立ち上がり、もう一度手を叩いた。その瞳には、どこか軽やかで茶目っ気のある光が浮かんでいる。
「誰が想像できるかしらね?この森、実は巨大な幻惑の結界だったなんて。」
彼女は小さく笑い、辺りを取り巻く夢のような樹海を一瞥した。
「本当の拠点は……あの岩壁の裏にある洞窟なの。全然魔女っぽくないけどね。」
立ち去ろうとしたその瞬間——
彼女はぴたりと足を止めた。眉を僅かに上げ、唇の端に微笑みが浮かぶ。
「ん?また誰か入ってきたみたい。」
夢子はくすっと笑って、まるで月夜に舞ういたずら好きな精霊のように目を細める。
「今夜は……ちょっと賑やかすぎるわね。」
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