第49話 16 迷いの森、魔女の影
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「それじゃあ……話すね。」
夢子は静かに息を吸い込み、揺れる蝋燭の灯に目を落とした。声には、懐かしさとも呟きともつかない柔らかさが宿っていた。
「彼との出会い……本当に今でも不思議なくらい、奇妙で……信じがたい出来事だったの。」
語り口は次第に穏やかになり、まるで世界全体がその遥かな記憶に包まれていくようだった。
「あれは……何年前のことだったかさえ思い出せないほど昔。あの頃の私は、森の奥深くにひっそりと身を隠して暮らしていた。王国から賞金首として追われ、誰にも見つからぬよう、生き延びるしかなかったの。」
「――そして、その日が来た。」
夢子はふと口を止め、目に淡い霧がかかったような光を帯びさせる。
「あの日、奴らはやってきた。」
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森はまるで眠れる獣のように、静まり返っていた。絡み合った古木の枝は迷宮のように空を覆い、入り口さえも霞んで見える。
五人の小さな冒険者パーティーが、呪われたその領域へと一歩ずつ足を踏み入れていた。乾いた落ち葉が足元でザクザクと音を立て、濃い霧が林間に漂い、薄いベールのように視界を包み込む。
「ここが……あの魔女が潜んでいるという森か。荒れ果てて、気味が悪いな。」
「まあ来たからには、進むしかないだろう。」
先頭に立つ若者が緊張を隠しきれぬ声で言う。
「この雰囲気……おかしいよ……木々が俺たちを見ているような気がする。」
別の者が低くつぶやき、不安げに辺りを見回す。その目には、かすかな怯えの色が浮かんでいた。
「気を抜くな。」隊長が鋭く命じる。「魔女の力は未知数だ。今まで捕まえようとした者は……一人として戻ってこなかった。隊列を崩すな。絶対に散るな。」
一同は霧の中を慎重に進み続けた。静寂の中にあるのは、呼吸と足音だけ。
「本当に……この森に魔女がいるのか?」
「いるさ。」隊長は断言する。「数週間前にも、彼女の姿を見たという者がいた。黒い霧が立ち込めて、森全体が生きているように動いていたそうだ。」
隊はさらに奥深くへと進み、やがて比較的開けた林間の空き地に辿り着いた。
「ここで少し休もう。体力を回復しておけ。」
警戒を緩めたその瞬間――
一人の隊員が異変に気づき、頭を上げて周囲を見渡した。顔色がサッと青ざめ、震える声を絞り出す。
「……おい、ちょっと待ってくれ……今、俺たち……四人しかいない……? 一、二、三、四……」
空気が凍りつくように張り詰めた。
「そ、そんなはずない! さっきまで……さっきまで新人のあいつと話してたんだぞ!」
もう一人が狼狽しながら叫ぶ。
「慌てるな。」隊長は歯を食いしばり、冷静さを保とうとする。「魔女が近くにいる証拠だ。全員、背中合わせになって周囲を警戒しろ。音でも動きでも、何か感じたらすぐに知らせろ。」




