第49話 13 数学の大試験
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どうやら、その願いは叶えるのが難しそうだね。
星は小さく息を吐き、膝の上で人差し指を無意識にくるくる回しながら、視線を天井のシミに泳がせ、深い思考に沈んでいった。しばらくして、彼女の瞳にかすかながらも揺るぎない決意の光が灯る。
「……それなら、計算を勉強しようかな」と、彼女は囁くように言った。その声は自分自身へのひそやかな約束のようだった。「そうすれば将来、安定した良い仕事につけるのかなって。だって、お金って……いつかは尽きちゃうものだし」
「本当にそれでいいの?」
ニックスは真剣な眼差しで星を見つめ、問いかけた。「それが君の本当にやりたいこと?」
星は小さくうなずき、少し強がるように、しかしどこか曖昧な自分への説得を含んだ表情を浮かべた。
「うん……正直言うと、数学って本当に苦手なんだ」
ニックスは後頭部をかきながら、ちょっと苦笑した。「でもね、数学がすごく得意な人を知ってるんだよ」
午後のやわらかな陽光が木漏れとなってベンチを照らし、数羽のスズメが足元で地面をついばんでいる。ニックスは星を連れて、静かな長椅子に腰かけている人物のもとへ向かった。
「彼、紹介するよ」と朗々と話し始める。まるで伝説の英雄を語るように続けた。「クラスでずっと数学1位で、地区のオリンピック数学大会でも優勝したことがある。もし俺たちがこの世界に来てなければ、来年は全国大会に出る予定だったんだ」
「その人が―― シャーだ」
シャーは軽く目をやるだけで、その栄誉に全く动じない様子だった。
「シャー、星が突然『数学を学びたい』って言い出したんだけど、教えてくれる?」
「……いいよ」
シャーは平然とした口調で星を一瞥し、「ただ、どれくらい分かっているか最初に試してみたい」と言いながら、冷静に問いかける。
「質量1kgの物体を地面に投げて、12Nの力で押しつけるとする。地面に当たったあと、どれくらいの高さまで跳ね返りますか?」
星は目を見開き、まるで難解な呪文を聞いたかのようにぼんやりしている。
ニックスは口をぽかんと開けたまま何も言えず、固まってしまった。
シャーは小さくため息をつき、失望の色を浮かべながら言った。「これは基本中の基本の問題なんだけど……ふたりとも、分からないの?」
「なんだよ!みんながみんな、公式と電卓しか頭にないわけじゃないぞ!」
ニックスが思わず噛みつく。
シャーは肩をすくめ、薄く笑いながら言った。
「確かに……でもね、数学でゼロ点を取れるっていうのは、ある意味すごい才能かもしれないよ?ニックス、俺でさえそこまではいけないもん」
ニックスは頭が立ち上がりそうなほど憤慨した。
それからシャーは星に数学を教え始めた。
――だが、わずか30分後。
「……あのね、正直言うと、そろそろ夢を変えた方がいいと思うよ」
シャーはこめかみを押さえ、あきれたように息をついて続けた。「彼女、数学の基礎力が本当に足りないし……それに、そもそもあまり興味がないみたいだし。どうして急に数学を学びたいって言い出したの?」
星は答えを探すように目を伏せながら、その理由を打ち明けるのだった。
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