第49話 12 「君と笑う朝の魔法」
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カーテンの隙間から朝の光が差し込み、木の床にやわらかく、温かな光の斑紋を描いている。静かな空気の中、外の枝先からはときおり小鳥の澄んださえずりが響いてくる。
「ん……そろそろ午前十一時だな」と、ニックスは伸びをしながら、のんびりと呟いた。「さあ、今日はどこへ行く?」
彼の横には星が立ち澄み、その瞳はまるで洗い立てのビー玉のようにきらきらと輝いている。
「わたし、朝ごはんの店に行きたいな」星は真剣な表情で言った。その声には、期待とときめきが混じっている。「どうやって料理するか学びたいの。いっぱい、おいしいごはんを作れるようになりたいの!」
言い終えるや否や、小さなお腹が「ぐうぅ」と鳴り、それが静かな部屋に大きく響いた。
ニックスは優しく微笑んだ。「星、ごはんまだ食べてなかったんだな?」
星は小さく頷き、照れたように答えた。「うん……だって、夜がまだ寝てたから、起こしたくなくて。それに……夜と一緒に食べたかったの。前に夜が言ってたでしょ? みんなで食べるごはんは、もっとおいしくなるって。」
「そうか……そしたら、ちゃんと朝ごはん食べに行こうか」ニックスは優しく頭をなでた。
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朝ごはんの店はほんのり香ばしい香りに包まれていた。焼きたてのパン、ふわふわの卵、その温かな湯気が食欲を誘う。星は美味しそうに口を閉じるたびに、真剣にノートを取り、使った材料や調味料、皿の盛り付けまで細かく書き留めている。時折顔を上げ、笑顔で店長に料理のコツを尋ねる姿は、まるで小さな料理研究家のようだった。
店長は笑顔が優しい中年の男性で、ゆっくり丁寧に答え、星は嬉しそうに安堵の表情を浮かべている。
その後、ふたりは近くのスーパーへ。
「お砂糖を買わなくちゃ」星は真剣に言い、棚から白い粉の袋を取り上げた。
「これにしよう!」期待に満ちた笑顔で。
ニックスは慌てて手を伸ばした。「ちょっと待って!それ、砂糖じゃなくて『塩』だよ!」
「えっ?そうなんだ……ありがとう、夜が教えてくれて」星は慌てて塩を戻し、別の白い袋を持ち上げた。「じゃあこれが砂糖?」
「それは……小麦粉!」ニックスは苦笑しながら訂正した。
さらに星は次に、バターを持っていたつもりが石鹸を手に取り、
「それ、食べちゃダメなやつだよ!口泡ふいて病院行きだぞ!」とニックスが慌てて止めた。
そして蜂蜜を取ったつもりが、清掃用洗剤を手にしてしまい、
「殺す気か!?」とニックスがいたずらっぽく冗談を言った。
そんな珍事件が続き、星は恥ずかしそうに頬を赤らめ、小さく俯いた。
「夜……わたし……どうも向いてないみたい」
「そうだな……ちょっと難しいかもな」ニックスは温和に頷きながら、「で、どうして急に料理を学びたくなったんだ?」
星は顔を上げ、真っ直ぐにニックスを見つめた。瞳には小さな決意が宿っている。
「だって……これから夜と一緒に冒険に行くとき、夜においしい朝ごはんを作ってあげたいから。今日みたいに」
その言葉に、ニックスの心がふわりと柔らかく揺れた。胸の奥がぽっと温かくなるのを感じ、そっと笑みがこぼれる。
「そっか……妹がいてくれて、本当によかったよ」
彼はそっと星の髪を撫でた。「夜はひとりっ子で、兄弟姉妹がいなかったんだ。やっぱり、妹がいるって……すごく幸せなことなんだな」
ふたりを優しく包む朝の陽射しが、その幸せな時間に祝福を捧げているようだった。
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