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第7話最終章クルンダル

旅立ちの前夜


ニックスは静かにうなずき、深く息をついた。村長の言葉を胸に刻みながら、木製の扉に手をかける。その感触は冷たく、少し湿っていた。長い戦いの後、ようやく安堵の瞬間を迎えたはずなのに、彼の心はどこかざわついていた。


扉を開け、村長の部屋から出ようとしたその瞬間——


「少年、待ってくれ。」


低くも力強い声が背後から響いた。ニックスは振り返り、ベッドに横たわる村長の鋭い眼差しを受け止めた。


「ひとつ伝え忘れていたことがある。この会談に向かう道中、危険が伴うかもしれない。だが、他に選択肢はない。ここの冒険者たちはほとんどが負傷し、まともに動ける者は少ない。だからこそ、君におすすめの場所がある。」


「どこですか?」


ニックスは真剣な表情で問いかける。


「この地域の首都、クルンダルだ。」


村長の言葉を聞き、ニックスの脳裏に壮麗な都市の光景が浮かんだ。クルンダル——商人や旅人が行き交い、活気あふれる繁華な都市。石造りの高い城壁が街を守り、広場では大道芸人が芸を披露し、路地には香ばしい焼き菓子の匂いが漂う。


「クルンダルには強力な冒険者が集まっている。もしかすると、君の旅路にふさわしい仲間が見つかるかもしれない。」


村長の言葉に、ニックスの心は少し高鳴った。長い間、孤独な戦いを続けてきた。しかし、本当に信頼できる仲間がいれば、どれほど心強いことだろうか?


「そうですか……やはり冒険には仲間が必要ですね。」


彼は小さく呟きながら、村長の言葉をかみしめる。


「ところで、チャーリーとヘンリーは元気ですか?」


不意に、懐かしい名が口をついた。


村長は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑んだ。


「ああ、彼らは元気だ。一階に住んでいる。」


「驚いたよ。彼らが死んでしまったかと思った。あれは本当に悪夢だった……。」


ニックスの表情がわずかに曇る。炎と剣が飛び交い、絶望が村を覆ったあの夜。多くの仲間が傷つき、倒れていった。彼らが生き延びていたことを知り、心の底から安堵する。


村長は静かに彼を見つめ、言った。


「だが、君はこれからも多くの試練を経験するだろう。」


「……それは避けたいな。」


苦笑しながらニックスは答えた。試練も困難も、もううんざりするほど経験してきた。しかし、戦わなければならない時があることも分かっている。


彼は扉を押し開け、村長を振り返った。


「お世話になりました。」


村長は微笑みながら、まるで未来を見通すような穏やかな声で言った。


「君の冒険は、無限の可能性に満ちているよ、少年。」


ニックスは静かに扉を閉じ、外の澄んだ空気を深く吸い込んだ。


——クルンダルか。


彼は夜空を見上げた。星が瞬き、まるで彼の未来を照らすように光を放っていた。


「……一度行ってみるか。」


もしかしたら、そこで新たな仲間と出会えるかもしれない。彼らがこの世界にいなかったら、それはあまりにも寂しいことだ。


ニックスは心を決め、静かに家へと戻った。



---


クルンダル - 冒険者ギルド


夜の帳が降り、クルンダルの街は一層賑やかさを増していた。酒場と一体化した冒険者ギルドは、豪快な笑い声と酔いどれた歌声に満ち、木のテーブルに酒杯が打ち鳴らされる音が響く。灯火が揺れ、壁にかけられた数々の武器が鈍く光を反射している。


そんな喧騒の片隅——


「フィード、何をぼんやりしているんだ?早くカードを出せよ!」


声の主は大柄な戦士だった。手にはカードを握りしめ、口には煙草をくわえている。


その向かいに座る男、フィードは、ぼんやりとカードを見つめていた。黒髪は無造作に伸び、顎には無精髭が生えている。戦士のような体つきをしているが、その目はどこか遠くを見ているようだった。


「……ああ、すまない。ただちょっと考え事をしていた。」


彼はゆっくりとカードを置きながら、独り言のように呟いた。


「ニックスのやつ……まだこの世界に来ていないのか……。」


ギルドの喧騒とは対照的に、フィードの心の中には静かな焦燥が渦巻いていた。


——お前、まだ迷っているのか? それとも、すでに旅立っているのか?


クルンダルの夜は更けていく。しかし、運命の歯車は確実に動き始めていた。



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