第49話 04 時の雨に滲んだ、あの人の顔
---
幽霊は夢子の瞳をじっと見つめ、その中に敵意がないことを確かめてから、ようやく手を剣の柄から離した。
「……よし、それじゃあ、あんたの口からちゃんと説明してもらおうか。」
彼はそう静かに言った。
「本当はね、ただ穏やかに休みたかっただけなのよ。でも……まぁ、こんな路上で話しても、詳しい内容なんて聞こえづらいでしょ。」
夢子はそう言いながら、軽やかに歩き出した。
二人が辿り着いたのは、村の中心から少し離れた、森の縁に建つ夢子の家だった。木材で作られたその家は、外観も内装も温もりに溢れ、どこか懐かしさを感じさせる。廊下やリビングには様々な植物が飾られ、天井の照明は花の形を模しており、やさしい光が部屋を包み込んでいた。
大きな窓からは朝になれば柔らかな陽光が差し込み、光がプリズムのように屈折して、部屋いっぱいに虹色の幻想を描き出すだろう。
「植物……ずいぶん多いんだな。」
幽霊が呟いた。
「で、そろそろ説明してくれるんだよな?」
「ちょっと待ってて、水を一口だけ。病院で働いてると、水を飲む暇さえない日があるのよ。」
夢子はそう言って、勢いよくコップの水を飲み干した。
「私が日落村に来た理由……それは、ただ静かに、平穏に暮らせる場所を探していたから。今の生活は、とても気に入ってるの。信頼できる友人たちがいて、少し忙しいけどやりがいのある仕事もあって、帰るベッドもある。だからこそ、この暮らしを壊したくない。あなたにも壊してほしくない。」
夢子の声は穏やかだったが、その瞳には強い意志が宿っていた。
「だから聞くけど……どうして私の正体に気づいたの?」
幽霊は少し驚いたように眉を上げた。
「……あぁ? 覚えてないかもしれないが、実は昔、あんたと会ったことがある。そのとき、あんたのそばには友人らしき男がいた。二十代の、黒髪で落ち着いた雰囲気のやつだったと思う。」
「それだけだよ。誰にもこのことは言わない。約束する。」
彼は素っ気なくそう言った。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、夢子の顔がこわばり、急に前のめりになるように身を乗り出した。
「ちょっと待って、その男……彼の顔、覚えてる? どんな顔だったか、詳細を教えて……お願い、これは私にとってすごく大事なことなの!」
---




