第49話 01 静かに歩む帰り道、風がやさしく背中を押していた
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旅路は遥かであったはずなのに、不思議と時間はあっという間に過ぎていった。夕闇がゆっくりと地平線を染め上げるころ、ニックスたちはようやく、あの懐かしい村——日没の村へと帰り着いた。
目の前に広がるのは、記憶に焼き付いた通りの風景。石畳の小道には夕陽が映え、草薬の香りが風に乗って鼻をくすぐる。そこには、かつて身を寄せたあの病院の姿もあった。
「ただいま。」
ニックスは小さく呟いた。その言葉は、夕風に乗って村の空へと溶けていった。
その声に気づいた村人たちが、次々に彼の方へ目を向けた。
「おや……あれって、数ヶ月前に村の代表として旅立ったあの子じゃないか?」
「思い出した!あのとき、炎の精霊が襲ってきたときに、敵の首領と一騎打ちしたっていう……あの戦いは本当に見事だったよ。彼はこの村の英雄さ!」
人々の声は、敬意と感動に満ちていた。
そのとき、ニックスの耳に、どこか懐かしくて心地よい声が響いた。
「やっと帰ってきたんだね!王都が襲撃されたって聞いてたけど、無事だったの?」
振り返ると、そこには夢子の姿があった。彼女の表情には、心からの安堵と再会の喜びが溢れていた。
「超怖かったよ! ほんと、信じられないくらいの魔物の軍団が突然現れてさ、でっかいドラゴンまでいたんだよ? でも最後はバイスタがなんとかしてくれてさ……あ、それと昔のクラスメートとも戦ったんだよ。あいつ、重力を操るとかいうとんでもない能力持ってて、ブラックホールを作り出して、俺を二回も吸い込んだんだ。でも最後の最後で俺が開発した奥義、“空間斬”で逆転したんだよ!」
ニックスは興奮気味にまくしたてるように語った。
「もう、もう、わかったから! 細かすぎるのはいいってば!」
夢子は苦笑しながら言った。「でも、こうして元気な姿を見られて、本当によかったよ。」
「やっぱり……君は僕のこと、ちゃんと心配してくれてたんだね~。昔は黒い心の医者だなんて思って、疑ってごめん!」
「ふふ、まあね。だって、あんたが死んだら——あの五千ゴールド、返してもらえなくなるからね?」
「なっ……それ、まだ覚えてたの!? この冷血な金貸し女! 商人の皮をかぶった悪魔!!」
ニックスは天を仰ぎながら叫んだ。
夢子はそんな彼の姿を見て、声を上げて笑った。その笑い声は、夕暮れの通りに明るく響き渡り、まるで時間が止まったかのような穏やかな温もりを残した。
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