第48話 18 「大丈夫、僕はここにいるよ」
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「もう、そんな危ないことは二度としないでよ……!
死んじゃうかもしれないって、わかってるの!?
今回助かったのは、本当に……ただの運が良かっただけなんだから……」
エイトの声は震えていた。かすれたその言葉のひとつひとつに、長い間抱えていた不安と恐怖が滲んでいた。
「……あなたね、何日もずっと意識が戻らなかったの。
お医者さんも……“もう目を覚まさないかもしれない”って……」
彼女は言葉を詰まらせ、そっと顔を上げた。その瞳には、今にもこぼれ落ちそうな涙の粒が浮かんでいる。
それを見たニックスは、優しく微笑みながら、静かな声で答えた。
「大丈夫だよ。僕は死んだりしない。だって……君たちが、僕を待っていてくれるから。そうだろ?」
彼はそっとエイトの目を見つめて、軽く笑った。
「心配いらないさ。もう無茶はしないよ。ほら、こうして元気に立ってるじゃないか。ね?」
彼は左手を伸ばし、棚の上からティッシュを一枚取ると、そっと彼女に差し出した。
「ねぇ、だから言ったでしょ。ちゃんと“師匠”って呼んでって。」
エイトは鼻をすするようにして、小さな声で言った。
「……し、師匠……ほんとに……こんな姿、初めて見せたじゃん……」
「うんうん、僕もびっくりだよ。師匠が泣くなんて、貴重な瞬間だなあ。」
ニックスは冗談交じりに笑う。
「……もう、全部あんたのせいよ。こんなに恥ずかしいの……」
「それは……ごめんね?」
ふたりの間に、久しぶりにあたたかな笑いが広がった。
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翌朝になると、他の仲間たちもニクスの回復を知り、病室は一気に明るい空気に包まれた。
とくに星は、まるで張りついたかのように一日中ニクスのそばにいて、少しでも様子がおかしくないかと気が気でなかった。
ニックスの体は、驚くほど順調に回復していった。
一週間ほどで自由に歩けるようになり、徐々に通常の生活へと戻っていく。
――ただし、一つだけ不安が残っていた。
時間の感覚が、時々おかしくなるのだ。
たとえば、午前中のはずなのに、気がつくと午後になっていたり……
まるで記憶が“抜け落ちる”瞬間があるようだった。
仲間たちもそれに気づいていた。
「最近のニクス、なんか変だよな……急に無口になったり、誰かが中に入れ替わったみたいだ」と。
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退院を控えた最終日、主治医が分厚い診断書を手に病室を訪れた。
その顔はいつになく険しく、静かに、こう切り出した。
「……正直に言って、あなたの状態は非常に深刻でした。
ここまで回復できたのは、まさに奇跡です。
私たちにも、どうして助かったのか説明がつきません。」
彼は一度言葉を切り、書類をめくりながら続けた。
「さらに特筆すべきなのは……あなたの魔力神経です。
それが、現在“自動的に修復されている”ということ。」
「つまり、こういうことです。
あなたの魔力の中枢は甚大な損傷を受けていて……
例え回復の兆候があったとしても、少なくとも――
これから一ヶ月は、戦闘行動は一切できないでしょう。」
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