第48話 15 別れに舞う泡沫
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「ああ……思い出した気がする。」
彼はそう呟いたが、その声には確信はなく、ただぼんやりとした悟りのようなものがあった。
「別に特別なことがあったわけじゃない……ただ、すごく長い、長い夢を見ていた気がするんだ。夢の中で、僕は別の世界にいて、そこで誰かに出会って……」
言葉が途切れ、彼の目にはかすかな苦笑が浮かんだ。
「まあ、言っても信じてもらえないよな。とりあえず、学校に行かなきゃ。」
ニックスはゆっくりと立ち上がり、わずかな迷いと疲れを纏いながら扉を開け、朝の光がまだ街角に溶けきらない通りへと歩み出した。
「なんだか、あの子……少し変じゃないかしら。」
母は彼の背中を見送りながら、そっと呟いた。
「最近、勉強で疲れてるのかもしれないな。」
父が少し考え込むように答えた。
街を歩くニックスの肩に、朝の陽射しがそっと降り注ぎ、彼の足元には静かで曖昧な影が伸びていった。
心にはぽっかりとした空洞があり、言葉にできない現実とのズレと、混乱が渦巻いていた。
「寝すぎたせいかな?……なんで、こんなに現実味がないんだ?」
彼は眉をひそめ、頭の中に浮かぶ断片的な記憶を必死に追いかけた。
「そうだ……カス。彼を、取り戻さなきゃ。」
その瞬間、骨の奥まで染みわたるような疲労が波のように押し寄せてきた。ニックスは道端のベンチに腰を下ろし、夢に踏み潰された旅人のように、肩で息をしていた。
「ああ……今、全部思い出したような気がする……」
彼はぽつりとつぶやいた。
「これは……夢の中なんだろうか?」
「ニックス?」
ふと、馴染みのある声が彼の意識を呼び戻した。振り返ると、そこにはどこか懐かしく、そして優しい姿があった。
「……お母さん?なんでここに?」
彼は少し戸惑い、夢からまだ完全に目覚めていないかのようだった。
「さっき階段を降りてきたとき、急に泣き出したのよ。様子が変だったから、心配で探しに出たの。そしたら本当にここにいたのね。」
母は彼のそばに来て、優しさに満ちた声で言った。
ニックスはじっと母を見つめ、その瞳に戸惑いが浮かぶ。
「どうしたの?忘れたの?小さいころ、よくこの公園で遊んでたでしょ。仲のいい友達と一緒に。」
母はふんわりと微笑み、目には懐かしさと愛情が滲んでいた。
ニックスは静かにうなずき、その表情には次第に落ち着きが戻ってきた。
「そうだね……でも、もう一人足りない。」
彼は低くつぶやき、まるで時を越えて何かを見つめているかのような眼差しを遠くへ向けた。
「ねえ、教えてくれる?」
母は彼の隣に腰を下ろし、そっと彼の手を取った。
「今朝、話しきれなかった夢のこと。」
ニックスは母を見つめ、その瞳にほんの少し涙がにじんだ。そして、口元には安らぎの微笑が浮かんでいた。
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