第48話 12 散りゆく流星
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刀光が一閃し、黒き虚無が静止した。ニックスの姿も同時に掻き消える。
「やはり…失敗したか。黒洞は止められない、抗うこともできない。あんなものを斬ろうなんて、無謀にも程がある…」
カスはほくそ笑みながら、ニックスが黒洞の中に永遠に囚われたと信じた。背後では、すでに竜の気配が蘇りつつある。
だがその瞬間――カスの目の前で、黒洞に微かな亀裂が走る。
時間が凍りついたかのような一拍の静寂のあと、その亀裂は水平に広がっていき、まるで割れたガラスのように宇宙の闇が砕け散った。空間の向こう側には、煌めく星々が覗いていた。
黒洞が、本当に真っ二つに切断されていたのだ。
そして、その断裂と共に現れたのは、紫に染まった疾風のような影――
「流星だ!」
その身を流星と化したニックスが、全身全霊の力を込めて前方へと突き進む。その軌道はまっすぐにカスの背後を捉えていた。
剣を収めると同時に、カスの胸元で爆ぜるような閃光が弾け飛ぶ。致命の一撃――
血が静かに地面を濡らしていく。
だが、それはカスのものではなかった。ニックス自身の体も、先ほど放った空間斬によって深く傷ついていたのだ。
その足取りはもはや定まらず、ニックスは音もなくその場に崩れ落ちる。
カスも深手を負っていたが、それでも立っていた。
「勝った……これが勝利だ。」
魔獣たちがすでに都市へと踏み込んでいる。かつて聞いた、あの地を揺るがす足音。そして、それを覆い尽くすような竜の咆哮が、再び王都全体に響き渡った。
カスの唇には、満足げな笑みが浮かぶ。
「見たか、ニックス。これが“結果”だ。これこそが“運命”。我々の目的は市民の虐殺ではない――世界そのものの変革だ。
圧倒的な力だけが、真理へと世界を導く唯一の手段なのだよ。」
高らかに笑いながら、カスはそう叫んだ。
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