第48話 08 こっちは3人チームだ
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「なあ……もし俺が死んだら、お前たちにも少なからず影響があるんじゃないか?」
ニックスの声は低く、どこかためらいがちだった。疲れと自嘲を滲ませたその表情には、決意の影が差していた。彼は体内に宿る二人の仲間を見つめる。
「だったら……今のうちに、俺の体から出ておいたほうがいいかもな。もしかしたら、俺が勝ったあとで……戻って来られるかもしれないし。」
「バカか、お前は?」
幽霊が容赦なく言葉を切った。その声は氷の刃のように冷たく、鋭かった。
「本当にどうしようもねぇな……はあ、もういい。手を出せ。」
「えっ?」
ニックスはきょとんとした顔を浮かべた。
「聞こえなかったか? もう一度言うぞ。手を出せ。」
幽霊は苛立ちを隠そうともせず怒鳴った。その口調には怒りだけでなく、どこか焦りに似た不器用な優しさも混じっていた。
「出さないなら……もうお前を助けてやらねぇからな、小僧。」
「……わかったよ。」
ニックスはゆっくりと手を差し出した。微かに震えるその掌に、幽霊は迷いなく手を重ね、さらに微精霊もそっと自分の小さな手を添えた。三つの手が重なり合い、言葉を超えた絆がそこに確かにあった。
「よし、これで……三つ目を受け止められる。」
幽霊は静かに告げた。その声音は、これまでにないほど真剣だった。
「どうして……?」
ニックスは戸惑いながら問いかけた。
「説明なんてしたくねぇんだよ。」
幽霊は鋭く顔を上げ、怒鳴る。
「さっさとこの忌々しい戦いに勝て! でなきゃ……マジでお前をバラバラにしてやるからな!!」
「……うん。何が起きたかはよくわからないけど……あとでちゃんと話そう。」
ニックスは微笑んだ。その笑顔は傷だらけだったが、どこか温かくて、優しかった。
「ありがとう、二人とも。お前らは……俺にとって一番大事な仲間だ。」
――現実世界。
ニックスの瞳に決意の光が宿り、彼は一切のためらいなく、三つ目の小球を飲み込んだ。
その光景に、カスは目を見開く。
「……正気か!? 死ぬぞ、お前!!」
だが、予想に反して――ニックスは爆発四散することはなかった。
心臓が鋭く痙攣し、次の瞬間には太鼓のように激しく打ち始める。
ドクン、ドクン――
一度、また一度。次第に早く、重く、激しく。
まるで胸の内側で何かが破裂しそうな勢いで、全身を突き抜ける痛みが彼を襲った。
「――これじゃ……本当に死ぬかも……」
カスは勝利の確信を浮かべ、不気味な笑みを浮かべる。
だが次の瞬間、その狂気の鼓動は、突如として静寂に変わる。
まるで、潮が引いた夜の海のように。
ニックスの体が、ゆっくりと立ち上がった。
塵にまみれた大地に月光が射し、彼の瞳にかつてないほどの澄んだ光と鋭い意志が宿る。
「……あー、さっきよりずっと楽だな。」
そう呟き、肩を回しながら微かに笑った。まるで、新しく生まれ変わったかのように。
「そ、そんなはずはない……!!」
カスは絶叫し、怒りに任せて無数の黒き腕を召喚する。
その全てが怒涛の如く闇のエネルギーを溜め込み、次々とニックスの場所を爆撃した。
大地は抉れ、煙が巻き上がり、耳をつんざく爆音が連続して鳴り響く。
地面には、底が見えないほどの巨大なクレーターが穿たれていた。
だが――
その灰の中から、聞き慣れた声がこだました。
「だから言っただろ、バカ。」
紫の魔力が風の嵐のように弾け、暗闇を一瞬にして切り裂く。
「俺は、一人で戦ってるわけじゃない。」
ニックスの気配が爆発的に膨れ上がり、雷雲のような紫の魔力が背後に渦巻く。
その瞳には確固たる光が宿り、全身から、不屈の意志が燃え上がっていた。
「――この戦い、終わらせてやるよ。」
その瞬間、ニックスの姿はまるで幻影のように消え――
気づけば、すでにカスの背後へと回り込んでいた。
その手には、勝利の刃が高く掲げられている。
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