第48話 07 命を懸けた決断
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「見たか、ニックス。」
カスはゆっくりと歩み寄り、その瞳に蔑みと優越を宿しながら言い放った。
「これが――お前と俺の、決定的な差だ。」
その声は低く、だが確かな重さを持って戦場の空気を支配する。
「だが、終わりじゃないさ。」
「次は――お前の身体で、はっきりと“絶望”を理解させてやる。」
次の瞬間、ニックスは突然、全身を凄まじい重力に引き寄せられるのを感じた。
それは彼だけではない。周囲の大地、木々、石、空気すらも、すべてが同じ中心へと吸い寄せられていく――まるで巨大な漩渦に飲み込まれるように。
そしてその“渦”は、次第に大地を圧縮し始めた。
土塊、樹木、岩が重なり合い、容赦なくニックスの身体を押し潰していく。
カスは冷酷に片拳を握り締める。
その瞬間――
ドン――ッ!!
すべての物体が極限まで圧縮され、一気に炸裂した。
爆発音と共に、空へと吹き飛ぶ塵煙。
破片となった石は燃えながら空中を舞い、流星群のように地上へ降り注ぐ。
ニックスは、その破壊の中心に打ち倒れていた。
カスが静かに近づく。
彼にはわかっていた――ニックスの魔力は、すでに限界に近い。
その時、周囲に再び無数の黒い手が浮かび上がる。
それぞれの掌には、黒く濁ったエネルギーが蠢きながら集束し、重い波動を放っていた。
すべての手が、ニックスただ一人に照準を合わせている。
「――まだ続けるつもりか?」
カスの声は冷徹で、まるで裁きのようだった。
「諦めろ、ニックス。もう……お前には戦う術など残っていない。」
だが、ニックスはゆっくりと腰から最後の小さな球を取り出した。
その手は震えながらも、しっかりとそれを握っていた。
光を微かに灯すその球は、今にも砕けそうな星のように、儚く、それでも確かに彼の意志を象徴していた。
「バカ野郎!!」
ニックスの精神世界へと響く声――
幽霊の怒号だった。
「お前の身体はもう限界だ! それを食ったら……間違いなく、体は爆発するぞ!!」
意識が一気に内へと引き込まれ、ニックスは精神世界の中にいた。
白く霞んだその空間で、幽霊の姿が人の形を取り、厳しい表情で彼を見据える。
「そうだよ、相棒。」
「お前の魔力神経はもう限界を越えてる。ここまで持ち堪えただけでも……奇跡みたいなもんだ。」
隣に浮かぶ微精霊も、心配そうに彼を見つめる。
「これ以上は無理だよ……今度こそ、本当に死んじゃう……」
「でも……このままじゃ……俺たちは負ける。」
ニックスの言葉は弱々しくも、諦めきれない意志に満ちていた。
幽霊は深く溜め息をつき、わずかに目を伏せる。
「……それでも。仕方のないことなんだよ。」
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