第48話 05 深い闇に覆い尽くされた。
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周囲の光が静かに薄れていく。まるで世界そのものの色彩が、少しずつ吸い取られていくかのように。闇は地の底から滲み出し、空気中から凝縮し、ついにはカスの肌からもじわじわと立ちのぼってきた。長く封印されていた呪いが、ついに目を覚ましたかのようだった。
虚空に、次々と黒い掌が浮かび上がる――干からび、歪み、指の節は枯れ蔦のようにねじれてカスの身体に絡みつき、その全身を締めつける。そしてそれらは合図でも受けたかのように、一斉に襲いかかってきた!
大地が激しく裂け、無数の黒い腕が屍の波のごとく溢れ出す。情け容赦なくニックスの分身たちを次々に捕らえていく。ついには本物のニクスまでも数本の腕に拘束される――だが彼は即座に霊化し、半透明の幻影となって束縛から滑り抜けた。
しかし、数万を超える黒の手は影のように追いすがり、空を覆いつくさんばかりの勢いでニックスを追撃する。
そして、空までもが崩れ落ちる。高空から、幾千の掌が彗星のように降り注いだ。
ニックスは何度も身を翻し、漆黒の中で豹のように軽やかに跳ねる。左から迫る手を避け、振り返って背後の攻撃を斬り払う。その眼は常に動き、細かな隙間を見逃さず、混沌の只中を素早く駆け抜ける。移動しながら、迫る黒い腕を次々と鋭い剣で断ち切っていく。
身体をひねって横に回避し、前転、後方宙返り、空中での高速回転――彼は舞うように斬撃を繰り出し、迫る黒い手を風車のように粉砕する。
だが……数は一向に減る気配がなかった。むしろ怒りに駆られたかのように、ますます増え続けていく。まさに終わりなき潮のように。
――これが本当の「数による圧倒」か。
「ニックス、お前、こんな言葉を知ってるか?」
カスの声が天から響く。冷ややかで、嘲るように。
「量が質を変える……ってな。でもお前、学校じゃロクに勉強してなかったんだろ?」
その瞬間、天空の奥で影が渦巻いた。無数の黒き手が一つに重なり、まるで山のごとき巨大な掌が形成される。それがゆっくりと、だが確実にニクスへと迫ってくる――世界を押し潰すかのように!
ニックスは眉をしかめながらも、口元にかすかな苦笑を浮かべ、空を見上げた。
「……いやいや、それ反則だろ。」
彼はその掌の上方を正確に見定め、剣を掲げる。
「――流星!」
その瞬間、彼の姿は鋭い光の矢と化し、天を貫く。剣は空を裂き、風を切り裂き、巨大な黒掌を一気に貫いて、激しい黒い霧を撒き散らした。
だが、終わりではなかった。
カスは冷ややかに笑いながら、ニックスの左右を狙う。二つの巨大な掌が、まるで蚊を潰すように、瞬時に迫ってくる。
決定的な一瞬、ニックスの幽霊鎧が両側へと変形し、二本の実体の腕となって攻撃を受け止めた。それでも、その代償として彼の行動空間は完全に封じられてしまった。
そのとき、引力が再び発動し、彼の身体は再び強固に縛りつけられた。霊化すら許されない。
地上では、黒い手がまるで狂った茨のようにうねりながら伸び、彼の脚や腕にまとわりつく。鎧をひっかく爪の音は耳障りな悲鳴のようだった。彼はもがこうとするが、四肢はまるで鎖に巻かれたように、すでに自由を失っていた。
そしてついに、無数の黒い手が彼の身体を覆い尽くす。層のように積み重なり、彼という存在を完全に呑み込んだ。
ニックスの目に映った最後の景色――それは、光すら届かない、窒息しそうなほどに濃密な「闇」だった。
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