第47話 最終章 月と地表との距離
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カスの防御魔盾は依然として幾重にも重ねられ、まるで透明ながらも分厚い魔法のバリアが彼の前に次々と築かれていた。しかし、目の前に放たれた紫の斬撃が放つ圧迫感は、まるですべてを飲み込む災厄の奔流のようで、彼は初めてはっきりと感じた。
――この一撃は、防ぐことさえできない。
紫焔の斬撃が防御盾に激しく命中し、鋭い“バリッ”という破裂音が長空を裂いた。それはまるでガラスが砕けるような鋭い音で、カスは歯を噛みしめ、低く呟いた。「くそ……!」
その瞬間、爆発的な衝撃力が中心から轟き渡り、まるで雷が天と地を引き裂くかのように、世界を真っ二つに震わせた。カスの背後にあった林は紫のエネルギーの波にあおられ、木々は焦げ、幹は真っ二つに断ち切られ、枝葉が舞い散って巨大な裂け目を生じさせた。
カスは自身の引力護盾に守られ、命こそとりとめたものの、逃げ遅れた魔物たちには逃げ場はなかった。彼らはその一撃に抗う術もなく、紫の閃光とともに三分の二が消滅し、悲鳴すら上げられずに塵と消えた。
「……守れなかったか……」
カスは苦々しく呟いた。「被害が大きすぎる……」
だが、戦いはまだ終わっていなかった。
ニックスが再び動いた。彼の眼差しは氷のように澄み、決意がその瞳に宿っていた。残された魔物たちへと、静かに、しかし確実に、踏み込んでいく。彼の殺意は実体を伴っており、冷たく刃のように空気を凍らせていた。
カスは歯を食いしばり、突進した。そしてついにニックスの前に立ちふさがった。
「考えるな!」
彼は怒声を上げ、拳を振り抜く。音は雷鳴のように鳴り響き、ニックスを強引に押し退けようとした。
ニックスは微かに笑った。身体が幽霧のようにふわりと消え、カスの拳をすり抜けていった。幽霊化が発動したのだ。
その直後、ニックスが幽霧から実体化する瞬間――背後から強烈な引力が襲いかかった。まるで無数の鎖に絡め取られたように、彼は急速に引き戻され、そして――
「……なに?!」
ニックスは瞳を見開いた。しかし次の瞬間、彼はまるで隕石のように後方へ投げ飛ばされ、地面に大きく転がりながら尻餅をつき、砂塵とともに停止した。
カスはゆっくりと歩み寄り、その目には表情一つ変えず、むしろ冷酷な光が宿っている。彼が立つたびに、周囲の空間が歪み、波打った。頭上には漆黒の王冠が静かに姿を現し、中央の黒曜石の宝石には、まるで深淵から這い出すかのように、数多の幽影の“手”が絡みついていた。
「お前、――王はお前だけだと思ってるのか?」
カスの声は、宣判のごとく重く冷たい。
「この世界には、王はどこにでもいる……お前が持ち上げられただけだ」
彼は冷笑した。「勘違いするな、自惚れるな」
ニックスはその黒い王冠を見つめ、顔に不敵な笑みを浮かべた。
「ハハハハハ……そうか?じゃあ見てやろうじゃないか――俺が“自惚れている”のかどうかをな?」
声とともに、幽霊の低い乙のような囁きが耳元で響く。それはまるで冥界の号角を吹くような響きだった。
「――この俺が、奴に教えてやる……“本物の碾圧”というものをさ!」
その瞬間、二人は同時に動き出した。
紫の閃光と深い闇が、まるで双竜の咆哮のように戦場を切り裂き、轟音と共に激突した!
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