第47話 19 「防御を許さぬ、絶対の一閃」
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カスは猛獣のように素早く反応し、ニックスの姿を追いかけた。だが、前方のニックスはまるで紫色の稲妻と化し、密集する魔物の群れを切り裂くように駆け抜けていた。一振りごとの剣裁きは風のように軽やかで雷鳴のごとく響き、魔物たちが反応する間もなく、その場に崩れ落ちていった。巨大な身体は紙のように切り裂かれ、脆く砕け散った。
ようやく追いついたカースの目に、ニックスが突然跳躍し、地面から浮き上がる光景が飛び込んできた――だが普通に落ちてはこず、宙に不思議な静止を見せていた。まるで見えざる力に持ち上げられたかのように。
「……飛んだ?」
カスは瞳孔を開き、息を呑んだ。
ニックスはじっと空中に浮かび、下の戦場を冷ややかに見下ろしている。彼の身を包む幽玄な紫の気炎は渦巻き、空気を焼いて歪めているかのようだ。そのまま滑るように前へ進むと、背後に幻想的な紫の残光が蛇行し、現実か幻か曖昧な軌跡を描いた。
数秒後、その漂いがふいに止まり、ニックスの身体は逆転し、剣尖を地面に真っ直ぐ向けながら流星のように落下体勢に入った。ためらいなく、彼は全力で急降下斬を放つ。圧倒的な重力と魔力が渾然一体となって轟音を伴い、大地に撃ち込まれた。
「ドゴォ!!」
剣尖が地面を突き破った瞬間、地面が裂け、紫の衝撃波が竜巻のごとく周囲を蹂躙。直撃を受けた魔物たちは落葉のように吹き飛ばされ、悲鳴と共に粉砕された。まさに神罰と呼べる一撃だった。
カスはその瞬間を見逃さず、乱戦の中へ突っ込む。ついに至近距離で一撃のチャンスをつかみ、ニックスに向かって上勾拳を放った。だが──拳は空へと突き抜け、全く手応えがない。
「……幻影か?」
カスは愕然とし、ニックスがただの残像であることに気づいた。
「そうか……遅かったか。」
その時、静かに息を吸い込む音が聞こえた。真のニックスは別の位置で凝視していた。彼は魔力増幅の小薬をひとつ口に放り込み、内側から爆発的な力を引き出す。全身が紫のオーラに包まれ、燃え立つような魔気が剣身へと伝わる。
ニックスは両手で剣を高く掲げ、額へと突き出した。幽霊鎧の力が剣に流れ込み、剣の幅も長さも恐ろしく拡張した。より重厚で獰猛な“巨刃”と化す。
紫光が蠢き、刃がうなる。刹那、周囲の時間は歪むように感じられた。
カスは直感的に危険を悟り、歯を食いしばりながら、防御魔法を何重にも重ねた──まるで不落の壁を築くかのごとく。
しかし─
「劈──山!!!」
という呼び声が轟き、天命を告げるごとくその刃が舞い降りた。
ニックスの両手から、一閃の剣技が放たれる。紫炎が剣身から奔流のごとく吹き出し、銀河が崩落する軌跡を描きながら、大気を切断し大地を断ち、カースの防御すべてへと真っ向から突き刺さった。
──天地が裂かれる一撃だった。
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