第47話 16 《共鳴の周波数》
---
「ちょっと言い過ぎじゃないか。」
ニックスは低く呟いた。だがその直後、彼は沈黙した。
──そうだ。幽霊の言うことにも一理ある。
仲間の言葉も、確かに間違ってはいない。
頭の中の雑念の多さは、今の自分にとってはただの重荷だ。
意識が一瞬で切り替わる。
冷たい精神の空間から、破壊された現実世界へと彼は引き戻された。
胸が激しく上下し、周囲の空気にはまだ爆発の焦げたような臭いが残っている。
そして少し離れた場所に、ひときわ馴染み深い人影が立っていた──
それは、星だった。
朝霧に包まれた瓦礫の中、星は静かに佇み、真っ直ぐに彼を見つめていた。
その瞳には不安が浮かんでおり、まるで彼の心を見透かすかのようだった。
その瞬間、ニックスは息を飲み込んだ。
彼は彼女を見つけた。そして、彼女もまたニックスを見つけていた。
「ダメだ……来ないでくれ……」
彼の心の奥から、焦燥の波が広がる。
けれどその声は、喉を通ることなく、ただ胸の中で叫ばれるだけだった。
だが、次の瞬間。
無骨な腕が彼の体を乱暴に持ち上げた──それは、カスだった。
「俺には俺の計画がある。」
カスの声は冷静ながらも揺るがない決意を秘めていた。
「犠牲は避けられないが、最小限に抑えることはできる。ニックス……もうこれ以上、関わるな。」
その言葉は刃のように鋭く、ニックスの心の最後の支えを断ち切った。
その瞬間、記憶・未来・現在……あらゆる時の流れが彼の中に洪水のように押し寄せた。
過去の恐怖、痛み、希望、裏切り……そして倒れていった仲間たちの面影。
忘れたいのに忘れられなかったすべてが、今、彼の脳裏に激しく甦る。
そのすべてが、一枚の透明な鏡のように、彼の目の前に広がっていた。
鏡の中には、問いかけ、もがき続ける自分の姿が映っていた。
だが、鏡を見つめれば見つめるほど、その表面には亀裂が走り──
ついに「パリーン」と音を立てて砕け散った。
その破片は宙に舞い、まるで星屑のように空気中を漂う。
その中で、ニックスは──狂ったように笑い始めた。
「ハハハハハハハハハハハハッ……!」
彼の笑いは、狂気とどこか安堵にも似た解放感が入り混じり、周囲の空気を震わせた。
「そうか……そういうことか……。だからうまくいかなかったんだな……」
「そもそも、周波数が合ってなかったんだよ。」
ニックスは静かに呟き、口元に歪な笑みを浮かべた。
「冷静であることは、大抵の場合で重要だ。」
彼は空を見上げ、目に異様な光を宿して言った。
「だが、今だけは……少しくらい理性を捨ててもいいかもな。」
「……すべてが繋がった。」
その狂気じみた笑いに、カスは眉をひそめる。
次の瞬間、直感的に危機を察知したカスは、反射的にニックスを蹴り飛ばした。
ニックスの身体は凧の糸が切れたかのように宙を舞い、深い森の奥へと消えていく。
木々が揺れ、霧が静かにたちこめる。
だが、落葉の上に倒れたニックスの表情に、痛みの色はなかった。
「幽霊と完全にシンクロするためには……同じ周波数でなければならない。
それに気づけなかった……俺が、冷静すぎたんだ。」
彼の足は地についておらず、ふわりと宙に浮かんだ。
まるで風そのものに抱かれるかのように、体がゆっくりと立ち上がる。
その瞬間、彼の周囲に紫の光が爆発するように広がった。
まるで雷が空を裂いたかのような、覚醒の兆しだった。
その光の中、再び彼の身体を覆う鎧──
銀と紫の紋様が星のごとく煌めき、かつてない輝きを放っていた。
そして、今度の王冠は──
天をも照らすような、荘厳な光で燃えていた。
ニックスはゆっくりと片手を掲げ、その指先に、ある“仮面”が浮かび上がる。
それは──半天狗の仮面。
妖しげな紫の文様が絡みつき、異界の気配を漂わせていた。
---




