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第47話 10 引き寄せる力




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ニックスの腕が突如として硬直した。まるで見えない鎖に縛られ、ポケットの縁で動きを封じられたかのようだった。その手は、自分の意思とは無関係に、得体の知れない力に引かれるようにして、ゆっくりとポケットの中から引き出されていった。


「さっき使おうとしたのは──その錠剤だろ? それに、さっきのは……お前の“幽霊化”能力ってやつだよな? 幽霊を取り込んだから、幽霊の力を得た……実体を持たない存在のように、瞬時に姿を消すことができる。面白いじゃないか。幽霊ってのは確かに不気味で、能力も特異だ。でもな、知ってるか? どんな存在にも“限界”はある。無限に強くなれる奴なんていないんだよ。そして──お前の限界は、もう目の前にある。」


カスはふっと笑った。だがその笑みは冷たく、皮肉と蔑みが混じった、凍てつくようなものだった。その一言一言が、ニクスの胸に突き刺さり、顔を苦悶に歪めさせる。


ニックスの脳裏は混乱の渦だった。先ほどの一撃の重さ、そしてあの引き寄せるような奇妙な重力……何が起こったのか、答えを掴もうと必死に思考を巡らせるも、見えるのは靄のかかった迷路のような感覚だけだった。


考える時間はなかった。彼は静かに息を吸い、姿勢を正し、地面を蹴って構えを取る。剣先がわずかに震え、刃の煌きが宙に浮かぶ。周囲に三つの幻影が現れ、まるで同時に動き出そうとする瞬間だった。


──その時、


「技の名前なんて叫んでる暇あるかよ。お前、遅すぎんだよ。」


カスの姿が瞬きの中に浮かび上がる。目にも留まらぬ速さでニックスの目前に現れ、体はまったく動いていないにもかかわらず、その存在はまるで重力の中心となり、ニックスとその幻影二体を同時に引き寄せた。


幻影は一瞬で霧散し、ニックスの体だけが激しく吹き飛ばされる。


宙を舞ったその瞬間、胸に再び、あの異様な引力が走る──そして彼の身体は再び、引き戻されるようにしてカスの眼前に。


カスは左手を掲げ、そこに凝縮されたエネルギー波が脈打ち、光を帯び始めていた。


「じゃあな。しばらく眠ってろ。」


冷ややかに放たれたその言葉とともに、容赦のないエネルギーの奔流がニックスの胸を貫いた。幽霊の鎧では防ぎきれないほどの衝撃。打ち抜かれた体は空中でバランスを崩し、まるで木の葉のように激しく吹き飛ばされる。


そして──


「ドンッ!!」


轟音とともに、彼の体は後方の巨木に叩きつけられ、幹が軋み、葉が震え、土埃が宙を舞う。視界がぐらつき、全てが黒に染まり──ニックスの意識は、深く沈んでいった。


カスはその姿を見下ろしながら、静かに言葉を投げかける。


「これが──お前と、俺の“差”だ。」


一呼吸置いて、彼は淡々と、しかし非情に告げた。


「悪いな。でも“重力”というものは、抗える力じゃないんだよ。」



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