第47話 06「空高くから、墜ちてくる存在。」
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その一瞬の隙を突いて、シャーが変化した巨大な兎が猛然と飛びかかる。逞しい両腕で鋭い牙が並ぶ竜の血塗られた顎をがっちりと掴み、そのまま地面へと叩きつけた!もう一方の拳は雷鳴の如く振るわれ、竜の頭部を容赦なく殴りつける。鈍い衝撃音が空気を震わせた。
竜は屈辱に満ちた咆哮をあげ、狂ったようにもがく。首筋に浮かび上がる筋肉は鋼のように膨れ上がり、シャーの押さえつけに対抗するように山崩れの如き力で反撃してくる。
やがて、力の均衡が崩れていく――明らかに、力比べでは竜の方が一枚も二枚も上手だった。
「ガチィッ——!」
鋭い鉤爪を備えた前肢が素早く伸び、シャーの両肩を正確に掴む。その恐るべき握力は、骨ごと粉砕しそうなほどだ。同時に、竜の顎がシャーの腕に噛みつく。その痛みは神経を貫くが、夏は歯を食いしばり、一切の呻きも漏らさず抵抗し続ける。
次の瞬間、竜がその巨大な翼を広げた。まるで空を覆う帆のようなその翼が一閃すると、周囲に烈風が巻き起こり、建物は軋み、鏡や窓ガラスは一斉に砕け散った。そして竜は夏を引きずるようにして空高く舞い上がる!
「シャーっ!」 「くそっ、止められない!」
エリーサとサンディがすぐさま杖を振り、魔法で竜を縛ろうとする。しかし、あまりにも強大な力の前では、その魔力も風に吹き飛ばされる木の葉のように無力だった。シャーの姿は空へと吸い込まれ、やがて白灰色の残光となって霞んでいく。
それでも、シャーは諦めなかった。空中でもなお、拳を振るい、竜の顔面へと猛攻を仕掛ける。ついに怒りを込めた左ストレートが竜の頬を捉え、数枚の鱗を吹き飛ばし、銀の光が空に弧を描いた。
しかし——
その傷は瞬く間に再生され、先程の攻撃がまるで怒りを買っただけのように思えるほどだった。
「……まずい……!」
竜が上昇を止め、巨体を下方へと傾ける。その姿はまさに、地面を目指して落下するミサイルの如し!
「うわああああああ!!」
シャーが目を見開いたときには、すでに逃げ場はなかった。次の瞬間、彼の身体は流星のように地上へと叩きつけられ、土煙が舞い上がり、大地が震える。地面には巨大なクレーターが穿たれ、無数の亀裂が蜘蛛の巣のように広がっていく。
だが、竜の攻撃はまだ終わっていなかった。再び口を開け、眩いエネルギーがその中に凝縮されていく。破壊の波動が放たれようとしていた。その照準は、倒れたシャーの頭部。
「シュッ——!」
間一髪、シャーは獣化を解き、人間の姿に戻る。その機敏な動きで、かろうじて致命の一撃を回避した。衝撃波はすぐ傍らを掠め、地面に深い溝を刻む。
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