第47話 03 《黒翼の下、僕らはまだ生きている》
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「みんな、しっかりしろ!」
ナイトは戦場の縁に立ち、混乱と恐怖を貫くような力強い声で叫んだ。だがその声には、どこか温かさも宿っていた。
「思い出してくれ、俺たちを待っている人たちがいることを……まだやり残したことが山ほどあるんだ。だからこそ、今日――こんなところで無様に死ぬわけにはいかない!」
その言葉は、まるで戦意の火を灯す火種のようだった。希望を失いかけていた兵士たちの目に、再びかすかな光が戻っていく。震えていた手に力が入り、硬直していた身体がわずかに動き出す。だが――
「で、でも……あんなデカい化け物、どうやって倒すんだよ……?」
ひとりの若い兵士が、泣きそうな声でそう呟いた。その言葉には、底知れぬ絶望がにじんでいた。
ナイトはしばし沈黙した。彼にも、答えなどなかった。
眉間に皺を寄せ、視線の先にある巨影を見据える。ただ一つの覚悟だけが胸にあった――「わからなくても、行くしかない。」
そのとき、皆が集まり、天を覆うほどの存在と対峙する。その正体は――龍。
「えっ……ドラゴン? 嘘だろ……でかすぎる……こんなの、どうやって倒すのさ?」
サンディが空を覆うその影を見上げ、呆然と呟いた。
「わからない。」
ザックが低く応じる。その声音には落ち着きがあったが、緊張も隠せなかった。
「俺たちはこれまで、ドラゴンと戦ったことなんて一度もない。弱点も、強みも……なにも知らない。ただ、試してみるしかない。」
「試してる間に潰されるとか、ないよね?」
シャーが冷たく言い放ち、その瞳は一瞬たりともその怪物から離さない。
「死ぬなんて、冗談じゃない。俺のお気に入りの漫画、まだ最終巻読んでないんだから。」
「……来るぞ!」
ナイトが声を張り上げる。
巨龍が突如として、山のような翼を大きく広げた。その翼が風を裂き、空気を押し出し、暴風となって周囲の魔物たちを一掃する。
「全員、隠蔽と防御を準備しろ!」
ナイトの号令が響く。
次の瞬間、黒き飛竜が大空へ舞い上がり、その漆黒の巨体はまるで隕石のように都市へと向かって急降下する。その影が大地を覆い、街は一瞬にして闇の中に沈んだ。
ズドン――!
地面を叩きつけるように着地した巨龍の衝撃で、大地が揺れ、空高く灰塵が舞い上がる。視界が遮られる中、龍はゆっくりと首をもたげる。黒き鱗に覆われたその首筋に、うねるようなエネルギーが徐々に集まり、渦を巻くように膨れ上がっていく。
そして、龍がその血に飢えたような口を大きく開いた瞬間――
喉の奥で凝縮された光が解き放たれ、破壊の柱が空へと突き抜けた。
その威力は天の雲さえ貫き、空にぽっかりと巨大な穴を開けた。
次の瞬間、まるで世界の終わりを告げるような雄叫びが轟く。
龍は動きを止め、四方をゆっくりと見渡す。その眼光が通るたび、大地が凍るような気配に包まれた。
巻き上がった砂塵の中、次々と兵士たちの姿が浮かび上がる。
彼らは恐怖に顔を歪めながらも、盾を高く掲げ、必死に前に立ちふさがる。その背後では魔法使いたちが呪文を詠唱し、光と炎を伴った魔法を放ち続けた。
だが――
その魔法は、まるで龍にぬるま湯をかけたかのようだった。ダメージなど一切なく、むしろその行為が怒りに火をつけてしまう。
「避けろーーッ!!」
誰かの絶叫が響く。
巨龍が怒りに目を見開き、鋼のような巨大な掌を振り下ろす。その瞬間、大地が悲鳴を上げるかのようにひび割れる。だが――
その刹那、白銀の閃光のような影が戦線へと飛び込んできた。
変身した巨兎――シャーが、その巨体を盾にして、背中でその一撃を受け止める!
地面が砕け、激しい衝撃に耐えながらも、彼はその場に踏みとどまる。
そして、その隙を見逃さなかった。
銀光がもう一筋、空を切り裂いた。
エイト――
すでに龍の眼前に現れていた彼が、まるで影のように忍び寄り、手にした短剣に冷たい光を宿しながら、その赤い瞳を狙って――
一閃。
躊躇なく、突き立てた――!
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