第47話 01「上の界と下の界」
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ニックスは燃え上がる街並みと、闇の波のように押し寄せる魔物たちを見つめながら、低くつぶやいた。
「援軍が来るまで……あとどれくらいかかるんだろう。それに、今の俺たちの背後には、まだ多くの市民が取り残されている。避難所って、本当にそんな大人数を収容できるのか?」
その問いに、エイトが力強く答える。
「避難所のことなら、心配はいらない。お前も王都の会議に参加しただろう? あの、空を突くようにそびえ立つ壮麗な建物……お前が入ったあの場所が、世界で最も堅固な避難所なんだ。」
エイトは微笑みながら続けた。
「今そこには、国王と、お前と同じように各地から集まった代表たちも避難している。だから、後方の安全は確保されている。」
ニックスはそれを聞いて、安心したように肩の力を抜き、にやりと自信に満ちた笑みを浮かべた。
「なるほど、なら後ろは任せていいな。それじゃ、俺たちは残りの魔物を片付けて、黒幕のもとまで一気に駆け上がるだけだ。」
心の中で、ニックスはふと呟いた。
(せっかくだ。幽霊との連携の訓練にもなるだろうな)
一方その頃、あの黄金に輝く塔の頂上では、国王と各地の代表たちが眼下に広がる戦場を見下ろしていた。
「まったく、戦いが終わって外に出る頃には、あの煙臭い空気を嗅ぐ羽目になるなんて、想像しただけでうんざりだよ。」
高価な服をまとい、銀の指輪をはめた貴族の一人が不機嫌そうに呟く。
「本当にな。しかも、また修復費で莫大な金がかかるなんて……考えただけで気が重いぜ。」
椅子に身を預けたもう一人の男も、ため息混じりにそう続けた。
そこに、洗練された身なりの女性が、髪を手で撫でながら口を開く。
「この場所……本当に大丈夫なのかしら? あれだけ魔物がいるんですもの。死人が多く出れば、民心の安定にも影響が出て、収拾がつかなくなるわ。」
その場の空気が一瞬沈黙に包まれる中、王が重々しく口を開いた。
「大丈夫だ。我々は今、国全体で最も安全な場所にいる。」
王の声は威厳に満ち、誰もがその言葉に耳を傾けた。
「この塔は、かつて最も偉大だった魔法使いによって築かれ、強力な防護結界が張られている。この結界を破れる者は、バイステ以外にはいないと私は断言できる。」
そして彼は、手を軽く上げながら続けた。
「すでにバイステには緊急の召集をかけている。王都への帰還を急がせており、あと一時間もあれば到着するはずだ。」
王は皆に向けて静かに言った。
「だから、どうか心配はいらない。今は……これをただの悪夢だと思って、静かに待っていてくれ。」
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