第46話 19 「緑色の放物線」
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実は、すぐ近くに潜んでいた操縦者――その姿は歪み、吐き出す気配は冷たく陰鬱な魔物――もようやく事態の深刻さに気づいた。
彼が先ほどまで見ていた「ザック」は、かつてのマグマ魔法使いと同様に、幻術によって作り出された囮にすぎなかったのだ。
そして本物のザックは、すでに音もなく背後に迫っていた。まるで今まさに鞘から抜かれようとする刃のように。
「ようやく会えたな。」
ザックの声は静かだったが、その言葉の奥底には濃密な殺意が宿っていた。
まるで嵐の直前に訪れる、不気味な静寂。
混乱しながら操縦者は、巨大なスケルトン・ジャイアントを動かして自らを守らせようとした。
だが、その意思が届くよりも早く、雷鳴のごとき一撃が巨体を叩き伏せた。
それは夏による一撃――山が崩れ、大地が裂けるような威力で、骸骨の巨人は地に叩きつけられ、砕け散った骨の音が空気を震わせる。
周囲に群がっていた小さな骸骨たちも、変身後の巨大なウサギとなったシャーの足によって、哀れにも粉々に踏み潰された。
「もう、終わりだ。」
ザックはゆっくりと前に歩み出る。声は低く、だが鋭さを帯びていた。
「随分と手こずらせてくれたな……俺、根に持つタイプなんだよ。」
その瞬間、ザックの額に金色の王冠が現れた。
それは魔力の結晶であり、古の王の意志が目覚めたかのような荘厳さを帯びていた。
周囲の空気がゆがみ、揺れ、まるで空間そのものが彼の存在にひれ伏すようだった。
「だから――この一撃で、終わらせる。」
ザックは手のひらの中にあった、一見ただの木製の小さな球を高く掲げた。
そして、力強く投げ放ちながら叫ぶ。
「衝撃力――マックス!!」
その木球は風を切って飛翔し、その軌跡が魔力で緑の光を帯びる。
空に美しくも致命的な放物線を描きながら、正確に操縦者の顔面へと命中した。
次の瞬間、魔物の身体は糸の切れた凧のように吹き飛ばされ、近くの石造りの建物に激突。
轟音とともに土煙が舞い上がり、無数の破片が空中を飛び散った。
ほぼ同時に、戦場にいた不死の骸骨たちも、その命の糸を断たれたかのように崩れ落ち、二度と立ち上がることはなかった。
彼らはもはや動くこともできず、まるで破れた人形のように、戦場の地に散らばっていった。
煙の中から、ザックがゆっくりと姿を現す。
額の王冠はすでに消え去っていた。
「どうやら……やり遂げたな。」
彼は静かに呟いた。
「次は、この雑魚どもを掃除しないとね。」
シャーは彼の隣に立ちながら、低くも確かな声で答える。
変身後の巨体は、まさに戦場の獣そのものだった。
「お前のその姿は、今の戦況にぴったりだな。」ザックは頷いた。
「じゃあ俺は前線の兵士たちを援護してくる。本来の役目――他者の支援に戻らないとな。」
そして、警告のように続けた。
「気を抜くなよ……俺の勘が告げている。もっと強大な何かが、こちらに向かってきている。」
「うん。」
シャーは軽く頷いた。
巨大なウサギとなったその身体が、一歩、また一歩と大地を震わせながら戦場の奥へと進んでいく。
その足音には、静かなる死の予感が漂っていた。
ザックはくるりと反転し、風に翻るコートをなびかせながら、戦火の向こうへと駆けていく。
その姿は、再び混沌へと溶け込んだ。
そして戦場の視点は、再び――
ニックスとエイトのいる場所へと移っていく。
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