第46話 07 空を裂き、隕石のように落下した魔物たち
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夜が近づくころ、小さな男の子は自分のベッドに身を横たえ、明日が休日だということを思い浮かべて、瞳をきらきらと輝かせていた。
「ねえ、おとぎ話を聞かせてよ」
男の子はわくわくした声で両親に呼びかけた。
「勘弁してくれ、明日の朝も早いんだぞ。お前も早く寝ないと身体によくないよ」
父親は優しくも少し困ったような笑みを浮かべて言った。
「明日、帰ってきたら姉さんが面倒を見てくれるよ。おとぎ話はそのときに聞かせてあげるから、いいかい?」
「そうよ、ごはんは棚の三段目に置いてあるからね」
母親が微笑みながら、やさしく声をかけた。
「わかった、心配しないで」
男の子は小さく頷いた。
「じゃあ、おやすみ。明日の昼頃には戻るからね」
両親が部屋の灯りを消し、静かにドアを閉めた。
男の子はそっと体を左に向けて、ぬいぐるみに手を伸ばし、その柔らかさを確かめながら目を閉じた。
やがて、ゆるやかな寝息とともに夢の世界へと落ちていった。
王都全体が、まるで深い眠りに包まれたように、ひとつ、またひとつと灯が消えていく。
残されるのは街路灯のかすかな光のみ——だが、この穏やかな夜は、すぐに終わりを迎えることとなる。
夢の途中、男の子は誰かに肩を揺さぶられて目を覚ました。
「早く起きて、大変なことが起きたの!」
姉の声だった。焦りと緊張が混じった声が、夜の静寂を破る。
「……もう朝なの? 姉さん……?」
男の子は目をこすりながら、ぼんやりと尋ねた。
「よく聞いて。今すぐお父さんとお母さんと一緒に避難しなきゃいけないの。街が……突然、襲われたのよ。
空から、いくつもの巨大な岩が落ちてきて、軍の基地を直撃したの。
それに、本来王都を守っているはずの魔法の防壁が……突然、消えたの。
魔物たちが、もうすぐ内城まで迫ってきてる。でも、私たちは内城に住んでるから、今のうちに逃げられるはず。
お父さんとお母さんが荷物を準備してる。さあ、すぐに一緒に行こう!」
姉はまっすぐに手を差し出した。
男の子はその手をぎゅっと握りしめ、二人で駆け出した。
両親の元に駆け寄ると、父親が鋭い目で確認した。
「身分証、食料、水……全部持ったか?」
「全部あるわ、大丈夫」
母親は振り返り、男の子の頬を優しく撫でながら微笑んだ。
「大丈夫、絶対に何とかなるわ。信じて……きっと騎士団が、すぐにこの混乱を収めてくれるから」
一家はすぐに避難所へと向かって走り出した。
街の人々もまた、無言のうちに中心部へと集まり始めていた。
月光の下、王都の命運が、静かに、しかし確実に変わり始めていた——。
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