第46話 06 穏やかな別れ
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翌日の王都会議はあっという間に幕を下ろした。まるで重たい夢の終わりのように。
午後の陽射しが柔らかく石畳の道に降り注ぎ、空気にはかすかな青草の香りと、城壁の外から届く初夏の熱気が漂っていた。ニックスたちは荷物を背負い、ゆっくりと城門へ向かって歩き出す——思い出の詰まったこの王都を離れ、新たな旅路へと足を踏み出すために。
城門では、ナイト、サンディ、ザックの三人がすでに待っていた。陽の光の下で伸びた彼らの影は、遠ざかる友情のように長く映っていた。
「時間が経つのって、本当に早いな……」 ザックはため息をつき、名残惜しさと感慨を込めて言った。「もう君たちが旅立つなんて……きっと次に会うときには、今よりもっと強くなってるんだろうな。」
「なんだか、ちょっと寂しくなるね。」 サンディはいつもの優しい笑顔を浮かべ、風のように穏やかな声で言った。「時間があったら、またいつでも帰ってきてね。」
「この広い世界で、また会えるって信じてるよ。」 ナイトは微笑みながらニクスの肩を軽く叩き、そして気楽そうに付け加えた。「でもさ、あんまり朝早くだと……俺、起きられないかもな。」
「そういえば……エイトは?」 ニックスは周囲を見渡し、不思議そうに尋ねた。彼女が見送りに来ていないことが気になったのだ。
「エイトね、昨日の夜にマンガを読みすぎて、結局寝坊したらしいよ。」 ナイトは肩をすくめ、苦笑いを浮かべながら言った。「まあ、どうせいつもの言い訳だろうけどな。」
「彼女、普段は一人が好きで、あんまり喋らないタイプに見えるけど……実は、一番こういう別れの場面に弱いんだよね。」 サンディはそっと語り、そこには相手をよく知る者の優しい洞察が滲んでいた。
ザックは静かに頷き、そして皆で手を振りながら別れを告げた。
「ねえ……」と、サンディがふと呟いた。「エイト、今どこかの隅っこで、ひっそりと悲しんでたりするのかな?」
「俺は金貨二枚に賭けるね。」 ザックはすぐに反応し、戦術の話をするかのような真剣な顔で続けた。「あのマンガに対する狂信的な執着を見る限り、二時間もあれば元通りになるさ。」
「じゃあ、俺も金貨二枚でいこう。」 ナイトは笑いながら手のひらを広げた。「でも俺は、彼女が回復するのは明日になってからだと思うな。」
「ちょっとちょっと、あなたたちひどくない?」 サンディは腰に手を当てて怒ったように言った。「仲間の感情をお金で賭けるなんて、私は金貨四枚!——彼女、今夜きっとこっそり泣いちゃうよ。」
「おいおい、君の役割って“心優しいお姉さん”じゃなかったっけ?その感情の変わりようは何なんだよ!」 ザックは思わず突っ込んだ。
「それはね、特別な人の前だけだよ。」 サンディはいたずらっぽくウインクしながらそう答えた。
ナイトはそれを聞いて腹を抱えて笑い出した。その笑い声は風に乗って広がり、まるで旅立ちを告げる鐘の音のように遠く、そして澄んでいた。
こうして彼らは、城門の前でしっかりと別れを告げた。
ただ——この中の誰一人として、今日という日、この何気ない別れの後に、この国全体がほぼ滅亡の淵に立たされるとは、誰一人として予想すらしていなかったのである。
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