第46話 04 「一人を救う……か?」
「我々がこの世界の覇者たる地位を維持している理由が分かるか? それは、我々の軍事力があまりに強大で、あらゆる反乱勢力を押さえつけるだけの威圧を持っているからだ。だが、ただ強いだけでは足りない。」
「この地位を守るには、芽吹く前の脅威すら、徹底的に摘み取らねばならない。」
彼の眼差しは会場全体を鋭く射抜き、その冷ややかさは深淵を覗くようだった。
「その領主が私欲のためか、あるいは不死の軍団という野望のためかは問わぬ。だが――そのような危険な志を前に、我々はどう抗うべきだ?」
彼はマントを翻し、雷鳴のごとき声で続けた。
「“最強”の戦士に頼るか? ならばその者が倒れた瞬間、帝国も共に崩れ落ちることになるぞ。」
「犠牲とは、平和のために払うべき代償だ。」
国王の声は、まるで裁きを下す神のように冷たく厳しかった。
「ただ……今回の件は、少々行き過ぎだった。だが幸いにも、目撃者は誰一人残っていない。」
彼は再び全員に目を配り、その声音には鋭い警告が含まれていた。
「ここにいる者たちには、節度と忠誠を信じている。この件を外に漏らす者など、いないはずだ。すべては――この王国の平和と存続のためだ。」
そして最後に、彼はニクスをまっすぐに見据えた。
その目には、相手の魂の奥を見通すような、深い洞察の色が宿っていた。
「強き軍こそが、帝国の礎である。もしお前に、それ以上の策があるというのなら――今ここで語ってみよ。さもなくば、お前のその言葉は、お前の背にある村の意思そのものとなる。発言には覚悟を持って臨め。」
ニックスはそれ以上、何も口にしなかった。まるで見えない鎖に舌を縛られたかのように。彼の表情は石像のように無言で硬直し、その瞳からは生気が抜け落ちていた。まるで魂が、この重苦しい空間から一時的に離れてしまったようだった。
その後に続いた議題は、彼の耳には一切届いていなかった。
気がつけば、会議の前半はいつの間にか終わっていた。
「明日、同じ時間に再び集まること。」
ただそれだけの告知が、まるで心に最後の釘を打ち込むように響き、今日という息詰まる一日がまだ終わっていないことを告げた。
ニックスと他の三人が、金と碧に輝く豪奢な――だが息苦しい会議室から足を踏み出したとき、全員の表情は嵐の中を歩いてきたかのように険しかった。空気は重く淀み、まるで天までもが雲を垂れ、彼らの肩に圧し掛かっているようだった。
「……本当に、最悪な一日だな。」フィードが低く呟いた。声には隠しきれない虚しさと悲しみが滲んでいた。
「絶望的な現実を突きつけられて、それでも何一つ変えられない……それが、一番怖いことだ。」
「少し休まないとだめね。」シャーがこめかみを揉みながら言った。彼女の声には明らかな疲労が滲んでいた。「今日は……情報が多すぎた。」
エリーサは何も言わず、壁に手をついていた。顔色は紙のように白く、すでに目眩を起こしているのが明らかだった。虚ろな瞳が宙を彷徨っている。
ニックスもまた、黙って自分の部屋へと戻っていった。
扉を開けた瞬間、ほんのわずかな安堵が胸に広がった。部屋の中は柔らかな灯りに包まれ、空気にはかすかな青草の香りが漂っていた。それはまるで、混沌とした外の世界から彼を切り離してくれる結界のようだった。
「夜、帰ってきたの?」
その時、不意に聞こえてきたのは、懐かしい声。夜の帳を撫でる風のように、そっと彼の張り詰めた心を撫でた。優しく、温かく、包み込むような声音。
ニックスは一瞬、動きを止めた。その瞳に、ほんの少し――ほんの一瞬だけ、柔らかな光が宿った。
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