第45話 15 願わくば、再び出会うその時も、あの美しい夕陽が私たちを包んでいますように。
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少年の顔には、疑念と警戒の色が隠しきれず、彼は水晶球をしっかりと抱きしめていた。その瞳には不信の波紋が広がっていた。 彼は歯を食いしばり、低い声で問いかけた。
「……どうして、急に僕を助けるなんて言うんだ?」
サムランはその言葉に応え、敵意のない穏やかな微笑みを浮かべた。 それは以前の冷たく高圧的な表情ではなく、まるで鎧を脱いだ戦士のような、真摯で安堵に満ちた微笑みだった。
「やはり、まだ僕のことを信じていないようだね。」
彼は一息つき、自嘲気味に微笑んだ。
「では、最初からどうやってここに来たのかを説明しよう。それで少しは安心できるかもしれない。」
彼はゆっくりと腰を下ろし、まるで運命に導かれた物語を語るように、静かに話し始めた。
「今朝、君たちが見た『僕』は、実はニックス君が作り出した分身だった。そして、その分身の外見は、僕が特殊な変装魔法で変えたものだ。」
彼は窓の外に目を向け、朝の光が白いマントの縁を柔らかく照らしていた。
「直接幻術を使うのは無理だった。軍の中には僕よりも幻術に長けた者が多く、すぐに見破られてしまうからね。だから、この方法は通用しなかった。」
彼は再び少年に目を向け、その瞳は澄んでいて揺るぎなかった。
「この計画を思いついたのは、あの日、ニックス君との戦いの中で彼の能力を見たときだ。あの時、彼の力が僕にひらめきを与えてくれた。僕たちは一度だけの賭けに出たんだ。」
サムランは静かに息を吐き、その声には運命の賭けに対する畏敬と安堵が込められていた。
「幸運にも、すべてが僕たちの予想通りに完璧に進んだ。だから今、君はもう何も心配する必要はない。誰も君を疑わないし、追ってくる者もいない。君は堂々と、何の懸念もなく彼女を連れてここを離れることができる。」
彼は穏やかな眼差しで少年を見つめ、その瞳は真っ直ぐで誠実だった。
「もし他に疑問があるなら、すぐにニックス君を呼んで直接話してもらうこともできる。」
少年はすぐには答えなかった。彼の瞳は揺れ動き、何かを考えているようだった。しかし、最終的に彼はゆっくりと口を開いた。
「……まだ、一番大事な質問に答えてもらってない。」
サムランは一瞬驚いた。
「どうして、急に考えを変えたの?」
今回は、サムランはすぐには答えなかった。彼は静かに立ち上がり、数歩歩いてから朝の光の中で足を止めた。彼の背中は陽光に照らされ、長く影を落としていた。彼は低い声で、これまでになく柔らかく静かな声で話し始めた。
「実は……そんなに複雑な理由じゃないんだ。」
彼は顔を少し横に向け、どこか哀しげな微笑みを浮かべた。
「もちろん、私情も少しある。例えば、僕が騎士になることを選んだ理由とかね。」
「別れは……いつだって辛いものだろう?」
彼の声は、風の音に紛れるほど低くなった。
「僕の騎士としての使命は、その痛みを少しでも和らげることだ。完全に消すことができなくても、せめて楽しい時間を少しでも長く続けられるように。」
「それが、僕が存在する意味なんだ。別れを経験したからこそ。」
彼は微かに振り返り、その瞬間の瞳は長い年月の塵を越えてきたようだった。夕陽の光が彼の目に映り込み、白い鎧は色彩を帯びていた。
「別れがもう少し優しくなりますように。そして、再会がもう少し近くなりますように。」
そう言い終えると、サムロンは再び歩き出そうとした。その足取りは静かで、しかし確かなものだった。
「気をつけて。」
しかし、彼が一歩を踏み出した瞬間、少年の声が背後から響き、静寂を破った。
「……ごめんなさい。前は誤解してた。」
サムランは足を止め、静かに振り返った。
「君は間違ってないよ。」少年はうつむきながら、少し声を詰まらせて言った。
「君はただ、守りたい人を守ろうとしていただけなんだ。」
「君は素晴らしい騎士だよ。」
サムランの顔には再び微笑みが浮かんだ。
しかし、今回は以前のような冷たく不気味な作り笑いではなく、冬の雪を溶かすような、暖かさを帯びた本物の笑顔だった。
少年の心にも、色とりどりの再会の光が差し込んでいた。
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