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第45話 12 《午後にまた会おう》




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ニックス様はわずかに眉をひそめ、困惑の色を浮かべられました。


「……彼らを助けるとおっしゃるのですか? お考えの変化があまりにも急ではございませんか。以前はそのようなご意見ではなかったと記憶しておりますが……」


サムラン様は静かに微笑まれ、落ち着いた口調でお答えになりました。


「それは公の場でのことでした、ニックス様。大勢の前で『魔物を逃がしたい』などと申し上げるわけには参りませんでしょう?」


「では、最初からおいでにならなければよろしかったのでは?」


ニックス様の声には、穏やかさの中にも鋭い問いかけが含まれておりました。


サムラン様は微笑を崩さず、静かにお答えになりました。


「ニックス様、私にはそのような選択肢はございませんでした。もし彼女を捕らえることができなければ、私は大隊長としての職務を果たせないことになります。小さな任務すら遂行できない者に、大きな任務を任せる者などおりません。理屈の上でも、感情の上でも、私にはどうすることもできなかったのです」


彼は手元のリンゴの皮を丁寧に剥きながら、言葉を続けられました。


「しかし、ニックス様、あなたとの戦いの中で、私はふと思いついたのです。すべての問題を一度に解決できる方法を。しかも、誰にも気づかれることなく」


サムラン様は剥き終えたリンゴを差し出しながら、穏やかに微笑まれました。


「それは、あなたの特異性ゆえに可能となる方法です。信じるかどうかは、あなたご自身の判断にお任せいたします。ニックス様なら、きっとお分かりいただけると信じております」


ニックス様は静かにリンゴを受け取られ、その冷たさが指先から心の奥深くまで染み渡るように感じられました。


「……理解いたしました」


サムラン様はゆっくりと立ち上がり、柔らかな口調でおっしゃいました。


「それでは、ニックス様、どうぞごゆっくりお休みください」


彼の背中に夕陽が差し込み、影が長く伸びておりました。


「それから……あなたがどのようにしてこれらのことをお知りになったのか、私は詮索いたしませんし、知りたいとも思いません」


彼の声には、警告とも取れる冷静さが含まれておりました。


「この世界では、知っているだけで十分なことがございます。それを軽々しく口にすれば、ただ一日寝て休むだけでは済まない事態を招くこともございます」


サムラン様は一歩踏み出し、振り返ることなく続けられました。


「あなたが私をどう思われようと、私は気にいたしません」


「ただ、今の私は、あの少年を助けるために動いております。それだけは、信じていただければと存じます」


彼は最後に微笑を浮かべ、静かに言葉を結ばれました。


「理由が必要であれば……午後にまたお会いいたしましょう」



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