第45話 11 死んだふり
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眩い白雷が流星のごとく、突如としてニクスの視界を裂いた。世界が白光に包まれるその刹那、彼には避ける間すらなかった――反応する暇もなく、サムランの左腕に宿った雷が、まるで天罰のように轟き落ち、ニックスの胸を直撃する。
その雷はまるで破壊の意志を秘めた刃。容赦なく胸の鎧を引き裂き、硬い金属は破片となって宙に舞った。空中で舞い散るそれらは断続的に閃光を反射し、ニックスの顔を淡く照らす。それはまるで、夜空に散る儚い星のように美しくも哀しい光景だった。
ニックスは呆然とした――まさか、戦いがこれほどあっけなく終わるとは思ってもいなかった。反撃の意志すら灯す間もなく、彼は雷光に飲まれていったのだ。
だが雷撃は激痛ではなく、不意を突かれるような痺れとして彼を包んだ。胸元から全身へと伝わるその感覚は、まるで魂を優しく撫でるかのような震え。力が一気に抜け落ち、身体を支えることすらできなくなった。
倒れかけたその瞬間、サムランがすかさず手を伸ばし、彼をしっかりと受け止める。その仕草は羽が落ちぬようそっと包み込むような、限りなく優しいものであった。
耳元で囁かれた声は、低く、そして温かい。まるで誓いのように響いた。
「……信じてくれ。」
その短い一言が、ニックスの心の奥深くを震わせた。視界は霧がかかったようにぼやけていき、意識が静かに沈んでゆく。
沈みゆく意識の中、彼の目に最後に映ったのは――泣きじゃくる少年の姿だった。涙に濡れたその顔は、助けを求めているようでもあり、別れを告げているようでもあった。
次に目を開けたとき、そこはまったく別の場所だった。
天井は静かな灰白色。柔らかな寝具の感触に包まれ、ニックスははっと目を覚まし、反射的に身を起こす。息が浅く、荒い。
「やっと目が覚めたね。」
懐かしい声が耳元で響く。どこか安堵の滲んだ、しかし真剣さもある穏やかな口調だった。
「今なら……冷静に話せるかな、ニックス君。」
ベッドの傍らには、敵意を感じさせない穏やかな表情のサムロンが立っていた。彼はわずかに身を屈め、柔らかな口調で続けた。
「君の睡眠の質には驚かされるよ。一日近くずっと眠っていたんだからね。」
彼は少しだけ表情を曇らせて、申し訳なさそうに言った。
「でも……本当にごめん。あの時の状況では、どうしても話す余裕がなかった。」
「それに……君の状態では、僕の言葉を落ち着いて聞ける状態じゃなかったから。」
サムランは一息つき、視線を真っ直ぐにニックスに向けた。その目は真剣だった。
「だから、これから言うことを……どうか、ちゃんと聞いてほしい。」
「夢魔のことについてだ。彼があの少年と再び会うことは……確かに、できる。」
「ただし、それには……これから僕が話す条件を、必ず守ってもらう必要がある。」
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