第45話 07 護りの剣
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セレナは本能的に逃げ出そうとしたが、足を踏み出した瞬間、周囲のすべてが人影で覆われ、逃げ道が完全に塞がれていることに気づいた。 空気さえも重く、動くことすら困難に感じられた。
包囲網は徐々に狭まり、無言の圧力が彼女を押し潰そうとしていた。
「もう……逃げられないみたいね。」
彼女は小さく呟き、隣にいる少年に視線を向けた。 その瞳には諦めの色が浮かんでいた。
「後で、私に脅されて仕方なくついてきたって言って。そうすれば、君は巻き込まれずに済むから。」
しかし、少年は首を横に振り、その目は揺るぎない決意を湛えていた。
「またそんなこと言って……僕はそんな嘘、絶対につかないよ。 僕たちはここから一緒に脱出するんだ。 その後の冒険も、もう考えてあるんだから。 君はまだ遊んでいないことがたくさんあるし、行ったことのない場所もいっぱいある。 これからの旅を、一緒に歩もうよ。」
彼の瞳は未来への希望に満ち、年齢を超えた強い意志が感じられた。
「でも、そんなの……危険すぎるわ。」
セレナは声を震わせながら反論した。
「大丈夫。 僕は君のために生きるって、前に言ったでしょ。 だから、心配しないで。」
少年は優しく微笑みながら手を差し伸べた。
その光景を見つめていたサムランの顔から、いつもの作り笑いが消え、複雑な表情が浮かんでいた。
「坊や、ここから離れてくれないか? さもないと、少し眠ってもらうことになるよ。」
彼は静かに言ったが、その声には冷たさが含まれていた。
少年は微笑みを崩さず、しかし目の奥には強い意志が宿っていた。
「ごめんなさい。 僕、寝るのは好きじゃないんだ。」
サムランは一瞬沈黙し、何かを悟ったように左手をゆっくりと上げた。
その瞬間、空気を切り裂く音が響き渡った。
「シュッ!」
一本の長剣が突然戦場に飛び込み、地面に深く突き刺さった。 剣からは紫色の魔力が波のように広がり、空気中に魔法の紋様が浮かび上がった。
ニックスはゆっくりと立ち上がり、彼を包んでいた紫の結界が蜘蛛の巣のように崩れ落ちた。 彼の目は冷たく、しかし確固たる決意が宿っていた。
「……精神支配の魔法が効かないのか。」
サムランは目を細め、心の中でつぶやいた。
同時に、あの馴染み深い紫の鎧が再びニックスの全身を覆い、その姿はまるで戦場に戻った武士のようだった。 鎧の下からは静かで冷たい気配が漂い、まるで深淵の中に潜む炎のようだった。
「……これで終わりにしよう。」
ニックスは低く呟き、その声は夜風に乗って剣の音のように響いた。
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