第45話 06 「別れは、また次に巡り会うための約束にすぎない。」
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ニックスは、もはや隠し通すことは不可能だと悟り、残された選択肢は一つだけだった。彼の指先がゆっくりと腰の刀の柄へと伸び、関節がわずかに緊張する。刃はまだ鞘の中にあるというのに、彼の決意が空気を裂き、まるで裂け目を生み出したかのようだった。
「そんなに焦らないでよ――」
その瞬間、サムランが何気なく左手を上げ、その掌をニックスの胸元へと軽く当てた。まるで穏やかな触れ合いのように。口調は変わらずゆったりとしており、軽い笑みすら浮かべていた。
「そうしないと……痛い目に遭うかもよ?」
「――封印。」
その言葉と共に、紫の魔力が空中で稲妻のように爆ぜ、瞬く間に薄く透明な結界が編み上げられていく。まるで絹糸のように繊細で、それでいて絶対的な力を持つそれは、ニックスの全身を包み込んだ。
一瞬、彼の意識は時の狭間に閉じ込められたかのように凍りつき、身体から力が抜け、ゆっくりと地面へと倒れ込んでいく。
現実の中では、サムランが無駄のない動作で彼の身体を受け止め、優しく地面へと横たえた。その表情には、冷ややかなまでの静けさが漂っていた。
「さて――今度は、ニックス君の仲間たちの番だね。」
サムランはゆっくりと振り返り、周囲にいる者たちを見渡す。その声は低く、だが揺るぎない威圧を帯びていた。
「だって……君たち、みんな戦うつもりだったでしょ?その目が、何よりも雄弁に語ってるよ。だったら、ちょっとだけ……落ち着こうか。」
彼は左手を高く掲げ、掌に魔力を溜めながら、不自然なほど優雅な笑みを浮かべた。その笑顔はまるで仮面のように張りつき、その裏に潜む圧倒的な力が空気を震わせる。
「やめろ、何をするつもりだ?」
ナイトが素早く前に出て、彼と仲間たちの間に立ち塞がった。声には怒りがにじんでいるが、その言葉は冷静さを失ってはいなかった。
「……こうでもしなきゃ、彼らは俺を止めに入る。君だってわかるだろ?ここで本当に戦いが始まったら、怪我人が出る。」
サムランの言葉は静かで、しかし確信に満ちていた。
「安心して。肉体には何の害もない。ただ、少しだけ眠ってもらうだけさ。逆に、本気で戦えば……その時こそ、取り返しのつかないことになる。」
「はぁ、まったく……」
エイトは読みかけの漫画を閉じ、あきれたようにため息をついた。
「ニックスは俺の弟子なんだぞ」
「本当に申し訳ありません、先輩……」
サムランは軽く頭を下げ、滅多に見せない誠実さを滲ませた。
「でも、今の僕にはこれしか選べないんです……後で、どんなお詫びでもさせていただきますから。」
彼の言葉が終わるや否や、フィード、エリーサ、そしてシャーの三人の身体が同時にふらついた。波のような魔力が彼らを包み込み、その意識をさらっていく。
彼らが地面に倒れようとしたその瞬間、エイトが素早くニックスを引き寄せ抱き留めた。他の三人も、それぞれの仲間の腕に抱きとめられ、倒れるのを免れた。
サムロンはまっすぐ立ち、ゆっくりと視線をセレナへと向ける。その眼差しはまるで鋼の刃のように鋭く、だがその表情には、なおも穏やかな微笑みが浮かんでいた。
「――これで、終わりにしようか。」
彼は低く呟き、この張り詰めた対峙に、そっと終止符を打った。
「……このゲーム、ここで幕引きだ。」
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