第44話 16 矛先をかわす
兵士は雪獅子の方を一瞥し、抑えた声で答える。
「これは、警戒のサインです……周囲に魔物の気配があるということ。」
彼の目が鋭く光り、確信に満ちた口調で言う。
「間違いありません……我々が探していた夢魔、彼女はこの館の中に潜んでいます。」
その言葉に、ニックスの指が強く握りしめられ、拳は無意識に固まっていた。瞳孔がわずかに縮まり、心の中では次々と考えが巡っていく。
――まずい、このままでは……どうすればいい?どうやって彼らを止める?
口を開きかけたその瞬間――
「スゥ……」
突風のように何かが通り抜ける気配とともに、空気に淡い魔力の波が漂った。そこに現れたのは、見慣れた姿だった。
――シャーが、姿を現した。
彼は姿を隠すことなく、魔物としての真の姿をそのまま現し、銀髪は流れるように輝き、冷ややかで計算された気配を纏っていた。
ニックスの目が輝いた。彼はすぐさま、この機会を逃さず言った。
「ああ、そうか!原因はきっと僕の仲間――シャアだ。」
そう言い終えるとすぐ、彼はシャアに視線を送り、その目で無言の指示を伝えた。
「彼は“魔物使い”です。その力が、雪獅子に魔物の存在を誤認させたのかもしれません。」
シャーはニックスの意図を即座に理解し、目をわずかに細めると、指先で空中に素早く数個の印を描いた。
次の瞬間、彼はまだ見つかっていなかったセレナを、先ほど少年と出会った時に使用した結界に封じ込め、水のように滑らかに人間の姿へと戻る。彼女の態度は最初から何もなかったかのように落ち着いていた。
雪獅子は彼をじっと見つめた後、ゆっくりと頭を下げ、静かに元の場所へと戻って咆哮を止めた。
「見ただろう?やはりそういうことだったんだよ。」
ニックスは両手を広げ、いつもの穏やかな笑顔を浮かべながら言った。
兵士は静まった雪獅子を一瞥し、抜きかけた剣をそっと鞘に戻した。彼は少し俯き、申し訳なさそうに言った。
「……申し訳ありません。先ほどは早とちりでした……次からはもっと注意します。」
そう言って深く一礼すると、彼はそのまま立ち去り、夜の闇にその姿が溶けていく。残されたのは、扉のそばで揺れる灯火が、かすかに揺らめくのみだった。
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