第44話 15 突如として響いた獅子の咆哮
---
ニックスはそっと頷き、口元に感情を見せない微笑を浮かべた。
「もちろん、構いませんよ。」
穏やかな口調だったが、その瞳にはかすかな警戒の色が潜んでいた。
その言葉に、サムランもまた微笑みを返したが、目の奥には何か計り知れぬ光がちらりと走った。
「では、この件はまた後ほどにしましょうか。」
そう言って彼はマントを優雅に翻し、いつものように落ち着き払った態度で続けた。「空もだいぶ暗くなってきたし、今夜はこの辺で。」
その時、銀白の鎧を纏った兵士が静かに近づいてきた。サムランは彼に目もくれず、まるで些細な事を告げるかのように淡々と口を開いた。
「そうだ、あの品をニックス君に渡してくれ……私はまだ公務があるので、これで失礼するよ。」
彼はくるりと背を向け、傍らの雪のように白いライオンのような獣の頭を軽く撫でた。指先が瀑布のような白い毛をなぞり、まるで無言の命令を下すかのようだった。
「君はここに残り、この兵と共に捜索と巡回を引き続き頼む。」
そう言い残すと、彼はニックスに手を振り、やがて深い夜の回廊の先に姿を消していった。
ニックスはその背中を見送る。その眼差しには、誰にも気づかれぬ冷ややかさが一瞬だけ浮かんだ。
――幸い、出発前に判断を変えて、本物の魔法石は手元に戻しておいた。予想外だっただろう、サムラン。私はお前の予測を読んでいた。
彼は気づかれぬようにネックレスをポケットへ戻し、冷たい金属の感触に触れた瞬間、張り詰めていた心がわずかに緩んだ。
兵士が手のひらの小箱を開き、慎重な手つきで差し出してきた。
「これは、サムラン様からのお預かり物です。お会いできた記念として……そして、夜分遅くにもかかわらずお時間を割いてくださった感謝のしるしとのことです。」
ニックスは箱を受け取り、軽く頷いて礼を示した。ちょうど口を開こうとした、その時――
「グルルルル……!」
突然、耳をつんざくような唸り声が夜の静けさを破った。あの雪獅子が急に前方を睨み、毛を逆立て、鋭い爪で地面を力強く踏みしめる。空気が一瞬にして緊張感に包まれる。
ニックスは驚き、思わず身を固くした。箱を取り落としかけるほどだった。兵士の顔色も一変し、鋭い眼差しに変わった。
「……どういうことだ?」ニックスは慎重に尋ねた。




