第44話 14 《銀光の下の駆け引き》
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ニックスは必死に平静を装っていたが、その唇の端には無意識のうちにわずかな笑みが浮かんでいた。それはまるで、自信の仮面か、あるいは礼儀として貼り付けた微笑のようだった。
「もちろん、構いませんよ。大したことじゃありませんから。」
そう言って、彼はその首飾りをそっとサムランの前へ差し出した。まるで、価値のない装飾品を手渡すかのように自然な動作だった。
白銀の獅子は、静かに一歩前へ出た。その雪のように白い毛並みは、柔らかな光を受けてほのかに輝いている。獅子は首飾りをじっと見つめた後、鼻先を近づけて軽く匂いを嗅ぎ、そしてゆっくりと前足を上げた。その仕草は気品に満ちつつも、野生の威厳を纏っていた。そして、その大きな前足を椅子の肘掛けに静かに置いた。まるで、何かの裁きを下すかのように。
ニックスは目をそらすことなくその様子を凝視していた。視線は静かだが、どこか警戒を帯びている。胸の内では鼓動が高鳴り、手のひらにはじっとりと汗が滲む。指先は無意識に服の裾を弄り、隠しきれない緊張感がそこに滲んでいた。
しばらくして、獅子は再び穏やかに腰を下ろした。まるで、何事もなかったかのように落ち着いた所作だった。サムランの表情が一瞬だけ変わり、眉間にわずかに皺が寄る。しかしその困惑の色はすぐに消え、再び丁寧で穏やかな微笑みを浮かべる。
「まさか……本物とはね。」
彼は小声で呟いた。その口調には隠しきれない驚きが滲んでいた。
「そうなると、なおさら気になりますね、ニックス君。なぜわざわざ、そっくりな複製品を作ろうとしたのか。」
ニックスは苦笑を漏らし、頭を軽く掻いた。その仕草には、どこか照れくささと自嘲が混じっていた。
「……いや、ちょっと笑っちゃうような話なんですけどね。」
彼は明るい口調で、少しの迷いもなく話し始めた。あたかも、ずっと前から準備していたかのように滑らかだった。
「実はですね、うちのチームのメンバーの一人がこの首飾りをすごく気に入っていまして……でも、ちょうど同じく小さな子どももこれを気に入っちゃって。どちらかに譲るのも不公平ですし、だったらいっそ、全く同じ物をもう一つ作れば、みんな満足できるかなって。」
言葉に詰まりは一切なく、その表情には一抹の曇りもない。まるで、複製は単なる思いやりから生まれたものであり、他意など一切ないと言わんばかりだった。
サムランはしばし沈黙し、何かを思案するように黙り込んだ。その後、ふと優しげな微笑みを浮かべ、ゆっくりと頷く。
「なるほど……ニックス君は本当に優しい方ですね。」
その声は誠実で穏やかだった。しかし、どこか底の見えない気配が残り、その微笑の裏側に、静かに見つめるもう一つの視線が潜んでいるような気がした。
ニックスは少し首を傾げ、落ち着いた口調で尋ねた。
「あの……でも、どうしてこの首飾りを調べようと思ったんですか? そんなに高価なものには見えませんけど。」
サムランはすぐに答えず、軽く笑ってから頷いた。
「話しても構いませんよ。」
彼は椅子にもたれかかり、金色の瞳が灯りを映し出す。その光は、静かでありながら、刃のように鋭さを湛えていた。
「“魔法石”というものをご存じですか?」
ニックスは目を大きく見開き、知らないふりをしながら真剣にサムランの説明に耳を傾けた。
数分後、サムランはゆっくりと微笑みを収め、じっとニックスを見据えた。
「それが、今夜ここへ来た本当の理由です。」
彼の声は穏やかだが、その奥には確かな鋭さがあった。
「この首飾りの中に……本当に魔法石が含まれているのかを、確かめるために。」
「最近、我々は魔法石の反応を正確に検出できる特別な装置を開発したんです。」
そう語る彼の声音には、やはり拒絶を許さぬ力が宿っていた。
「ですので……この首飾りを、少しの間だけでも、私に預けていただけますか?」
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