第44話 03 「すれ違う影、交わる運命」
ふたりは宿へと戻ったが、そこには誰の姿もなかった。しかたなく庭の石椅子に腰を下ろし、静かに待つことにした。
木々の間を風が通り抜け、葉の影が陽光に揺れて地面に映る。
空を見上げながら、ニックスがぽつりとこぼす。
「こういう時、スマホがあればなぁ……一瞬で連絡取れるのに。はぁ……文明の時代が恋しいぜ。」
「そういえば、“スマホ”ってやつ、前に途中までしか話してくれなかったよね。」
星がふと思い出したように顔を上げる。
「え、そうだったっけ?」
ニックスは一瞬考え込んだ後、照れくさそうに笑った。「じゃあ、続きといこうか。」
彼はふと心の中でつぶやいた。
(歴史の勉強が、こんなふうに役立つ日が来るなんてな……)
しばらくすると、見慣れた姿が宿の門を通ってくるのが見えた。
「よっ!戻ったぜー!」
フィードが軽快な足取りでやってくる。「どうだ?そっちは順調だったか?俺には、超特大のいいニュースがあるぞ!」
ニックスは一瞬で飛び上がった。「なにっ!?どんなニュースだ?」
「聞いてくれよ!昨晩の夢に出てきた人と、今日話を聞いた人の特徴が……ほとんど一致してたんだよ!見た目も能力も、まるで同一人物みたいだった!」
「いやー、俺もついさっき気づいたんだけどさ……やっぱ俺、探偵に向いてるよなぁ!」
ニックスは額を押さえて、深いため息をついた。
「今気づいたのかよ……それ、めちゃくちゃ分かりやすいじゃん。なんで早く言わないかなぁ……」
そして、皮肉っぽく笑ってフィドを見た。
「お前さ、もっとクルミ食えよ。脳にいいらしいぜ?」
「で、エリーサとシャーにはもう伝えたのか?」
語調を戻し、真面目な口調で尋ねる。
「うんうん、伝えたよ!」
フィードは頷き、「たぶん、そろそろこっちに向かってるんじゃないかな」と付け加えた。
光がやわらかく差し込み、空気の流れが微かに変わっていく――
彼らはまだ知らなかった。すでに、その背後に運命の扉が静かに開き始めていることを。
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