第44話 02 「頭が爆発しそうだ」
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「……あんなもの、本当に見分けがつかないほど精巧なのか?はぁ……まあ、俺が心配することでもないか。好きにすればいいさ。」
幽霊の声は意識の奥底から、潮が引くように静かに消えていった。ただ空っぽな静寂だけが残される。
「夜、誰と話してたの?」
星が小首をかしげ、不思議そうに尋ねてきた。
「正確に言うと……俺の中に住んでるっていうか、魔力に宿ってる存在だよ。すごく大事な相棒でもあるんだ。」
ニックスは軽い口調でそう答えたが、その言葉の端々にはどこか諦めが混じっていた。「前に話しただろ?あいつ、いつも助けるって言いながら、半分しかやってくれないんだよな……まったくもう。」
服の裾を払って立ち上がると、彼の顔に再び真剣な光が戻る。
「さて、無駄にしてる時間はない。午前中のうちに街で情報を集めよう。」
石畳の通りに斜めから朝陽が差し、市場からは人々の活気と露店の呼び声が混ざり合って聞こえてくる。
ニックスは人混みの中を縫うように歩きながら、観察し、積極的に声をかけていった。
「すみません、ちょっとお尋ねしたいんですが……背が高めで、ちょっと変わった服装をした女の子を見かけませんでしたか?」
丁寧な口調で、彼の覚えている限りの細かな特徴をひとつ残らず語る。
だが、返ってくるのは首を横に振る仕草と、曖昧な反応ばかりだった。
「申し訳ないけど、そのような方は見た覚えがありませんね。」
「うーん……全然ピンと来ないな。」
午前中をかけて奔走したものの、得られた手がかりはゼロ。
照りつける陽光が石畳に熱を帯びさせ、ニックスの忍耐力をじわじわと削っていく。
「なんでフィクションの探偵たちはあんなに簡単に人を見つけられるんだよ……あいつら、絶対チートでも使ってんだろ……」
彼はぼやきながら石段にぐったりと腰を下ろした。
「魔力感知でも何も出てこなかったしなぁ……マジで手強すぎる。」
星は彼の隣にしゃがみ込み、膝を抱えながらニックスの顔をじっと見つめた。
「見つからないなら……別の方法を考えればいいんじゃない?」
彼女の声は穏やかだった。「たとえば……相手にこちらに姿を見せさせる、とか。」
「おびき出すってことか?」
ニックスは眉をひそめる。「でも、それってどうやるんだ?誰を囮にする?どこなら安全に仕掛けられる?それに……うまくいっても、どうやって捕まえる?」
髪をぐしゃぐしゃにかきむしりながら、彼は焦げたパンのようにぐしゃぐしゃな頭で呻いた。
「だめだ……考えすぎて頭から煙出そうだ。とりあえずフィドたちと合流しよう。夏なら、何かいい案が浮かぶかもしれない。」




