第44話 01 「風が告げた再会の予感」
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ニックスは穏やかに微笑みながら言った。その声には、不思議と人の心を安心させる確かな力強さがあった。
彼はそっと手を伸ばし、怯えた小動物を撫でるかのように、少年の髪を優しく撫でた。その仕草は、まるで少年の、ようやく落ち着きを取り戻した心を乱さぬよう、細心の気遣いに満ちていた。
「任せてくれ。必ず、彼女を見つけ出すから。」
そう言い終えると、ニックスは背を向けて歩き出そうとした……だが、一歩踏み出す直前にふと立ち止まった。
彼は肩越しに振り返り、優しい笑みと共にどこか懐かしさを含んだ眼差しで少年を見つめた。
「それとね……君、本当にすごいよ。僕よりもずっと小さいのに、僕よりもずっと強い心を持ってる。ここまで来るの、きっとすごく大変だったろう? でももう大丈夫。苦しかった日々は終わったんだ。これからは僕に任せて。信じて。」
その言葉は、夜の静けさの中でそっと胸に溶け込む焚き火のように、少年の心を静かに温めた。
少年は小さく頷いた。その目には、まだ消えずに残る淡い光が宿っていた。
ニックスはその光を確認し、微笑を浮かべながら扉を開けて外へ出た。
外では風が優しく吹き抜け、沈みかけた太陽が空の端で静かに赤く燃えていた。
そのとき、屋根の上からしなやかな身のこなしでフィードが飛び降りてきた。まるで長い間待ち伏せていた猫のように。
「どうだった?話はうまくいった?」
フィードは伸びをしながら気だるげに言った。「もうすぐ一時間だよ。待ってる間に寝ちゃいそうだった。」
「まあね。」ニックスは少し軽い口調で返した。「あの少年は、自分の人生の意味を探しにこの街に来たんだ。それで、自分の物語を少しずつ僕に話してくれた。」
そして彼はフィードに視線を向け、少し茶化すように微笑んだ。
「ところで、屋根の上にずっといたって……足、痺れてない?」
「え? ちょうど感情が盛り上がってたとこだったの? それを僕が台無しにしちゃったってこと? ごめんごめん。でもさ、なんでそんなにトゲのある言い方するのさ?」
フィードは肩をすくめて続けた。「まあいいや、とにかく今はセレナを見つけることが最優先だよね?」
「……で、どうやって見つけるかって?」
ニックスは両手を広げ、肩をすくめた。「それは……まだ分からないな。」
「任せといて!」フィードは目を輝かせ、妙に自信たっぷりに言った。「きっと、美味しいものがいっぱいある場所に現れるはず!」
「お前みたいに、誰もが食い意地張ってるわけじゃないんだぞ……」
ニックスは半ば呆れたように言いながらも、その口調はどこか優しかった。
やがて彼の表情が真剣に切り替わる。
「まずは、エリーサとシャーに連絡を。けど――ナイトたち4人には絶対に話すな。厄介になる。」
「了解~。」
フィードは軽く頷き、そのまま素早く去っていった。
そのすぐ横で、星がひっそりと歩み寄る。まるで影のように、静かにニックスの隣に並んだ。
「で、これから何をするの?」
彼女は静かに問いかけた。
「人を探す。」
ニックスは端的に答えた。
その瞬間、彼の耳元に、どこか冷ややかで低い声が囁く――
まるで意識の底から湧き上がるように、幽霊の声が現れる。
「力の足りない魔物一匹を捕まえるために、騎士団全体を動かすなんて……大袈裟にもほどがあるよね? 明らかに、あいつらの目的はそれじゃない。魔物の件は、ただの建前さ。」
「分かってるよ。」
ニックスは静かに、しかし確かな決意を込めて答えた。「もう、対策は立ててある。」
彼らの足音が、静かに、しかし確実に物語の波を打ち鳴らし始めていた――
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