第43話 12 「戻れないあの日」
少年はゆっくりと床から起き上がった。体にはまだ力が入らず、まるで魂さえも抜け落ちてしまったかのようだった。半開きのカーテンから差し込む朝の光が、乱れた部屋を静寂と冷たさで満たしていた。
彼は無言のまま服の乱れを直し、重たい足取りで部屋を出た。
いつもと同じように、彼は馴染みのある通りへと戻り、自分の小さな屋台を再び開いた。通りを行き交う人々に食べ物を売るために。しかし、今日も彼の屋台の前には誰も足を止めず、閑散としていた。まるで、すべてが最初の頃に戻ってしまったかのようだった——静寂、孤独、そして生気のない世界。
夕暮れが迫り、市場が閉まりかける頃、売れ残りの食材を処分するために店じまいを始める商人たちの中を、少年はいつものように歩き、安く売られる食材を買いに向かった。
「また来たね、今日もこの時間か」
馴染みの店主が微笑みながら彼に声をかけた。「確か、お前の商売は結構うまくいってたはずだろ?最近、なんだか様子が違うな……それに——」
店主は一瞬言葉を切り、ふと何かを思い出したように目を細めた。「お前のそばにいた、あの背の高い女の子はどうした?今日は一緒じゃないのか?」
少年の指が微かに震えた。
脳裏に、セレナの姿が浮かぶ。琥珀色の瞳、かすかに微笑む唇、そして彼の隣に立っていたときの、言葉では言い表せないほどの確かな存在感——。
視線を落とし、少年は淡々とした声で三文字を口にした。
「いないよ」
その短い返答だけで、店主は何かを察したようだった。
「どうした?喧嘩でもしたのか?」店主は手を動かしながら、気軽な口調で尋ねる。「いや、俺も詮索するつもりはないんだが……お前ら、普通の友達には見えなかったけどな。もしかして……そういう関係だったのか?」
少年はその言葉を聞いて、ふっと冷笑した。
「まさか。」
感情のこもらない声で、彼は言う。「俺たちは……ただ、互いに必要としていただけさ。それだけの関係だった。」
「それだけ、ねぇ?」店主は少し眉を上げた。「でも、もう終わったんだろ?」
少年は答えなかった。ただ、まだ売れ残っている食材をじっと見つめていた。
「何かあったんだな。」店主は肩をすくめ、軽く笑いながら言った。「まあ、俺も人の恋愛事情に口を出せるほど経験豊富ってわけじゃないけどな……でも、お前の顔、そんなに何も気にしてないようには見えないぞ?」
「彼女は、お前のもとを離れたのか?」
「もし、彼女を取り戻したいなら——」
「いらない。」
少年は店主の言葉を遮った。その声は静かで、どこか冷え切っていた。




