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10万pv突破しました!!!【每日更新】史上最強の幽霊剣士  作者: Doctor Crocodile


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第43話 11 「終焉の影」

小さな少年は無言のまま、自分の部屋へと戻った。

静寂に包まれた夜、室内には彼のわずかに乱れた呼吸音だけが響いていた。

視線をさまようように彷徨わせ、散らかった机の上を見つめる。

やがて、かすれて輪郭を失った召喚魔法陣に目が止まる。


かつて鮮明に刻まれていたその紋様は、今や時間の流れに削られ、崩れかけた跡だけを残している。

だが、その儚い残影ですら、少年の心の奥深くに眠る記憶を呼び覚ますには十分だった。


少年はゆっくりと拳を握りしめた。

爪が掌に食い込み、肌にくっきりと跡を残す。

呼吸は乱れ、胸の奥に重い石を押し込まれたかのような息苦しさが襲う。


そして、次の瞬間——


堰を切ったように、全ての感情が溢れ出した。


怒り、悔しさ、苦しみ、絶望——

それらが渦を巻き、嵐となって心の奥底を荒れ狂う。


少年は突如、衝動的に手を振り上げ、机の上の本、紙、枕、毛布をすべて床へと叩き落とした。

椅子は倒れ、ガラスのコップが砕け散り、耳障りな音が静寂を切り裂いた。


部屋は瞬く間に混沌と化し、無言の嵐が吹き荒れた後の廃墟のような惨状が広がる。


窓の外では、夜がさらに深まり、冷たい月光が射し込んでいた。

散らかった床を静かに照らすその光の下で、少年は無気力に転がり、天井をぼんやりと見つめていた。


虚ろな瞳は、何の光も映していなかった。


どれほどの時間が経ったのか——


やがて、彼の指がわずかに動く。

雑多に散らばる物の中を手探りしながら、ついに一本の鋭いナイフを握りしめた。


冷たい金属の感触が、じわじわと掌に染み込む。

それは、夜の闇よりも冷たく、現実よりも確かなものだった。


少年は、ゆっくりと刃先を自らの喉元へと当てる。


呼吸は乱れ、肩が震え、心臓の鼓動が耳鳴りのように響く。

彼の瞳には、底知れぬ恐怖が宿っていた。


ナイフをじっと見つめる。

指先に込めた力が強まり、血の気が失せていく。


目を閉じる——


決意を固め、身を投げ出した、その瞬間——


膝の力が抜けた。


まるで全身から力が吸い取られたかのように、彼は支えを失い、その場に崩れ落ちる。


カラン——


ナイフが手から滑り落ち、床の上で乾いた音を立てた。


少年の手は止まらぬ震えに支配され、全身を縮こまらせながら、震える体を抱え込むように丸まった。


「……どうして……」


掠れた声が、薄暗い室内に静かに落ちる。


「どうして……こんな仕打ちを……?」


頬を伝った涙が、冷えた床の上に落ち、小さな水の輪を作る。


「僕は……何を間違えたの……?」


「なぜ……死ぬことすら許されないの……?」


「これが……僕に課せられた罰なの……?」


「これが……僕の運命なの……?」


囁くような声は、やがて耐えがたい嗚咽へと変わる。


腕で顔を覆いながら、少年は小刻みに震え続けた。


その姿は、まるで崖から落ちていく途中のようだった。


荒れ果てた部屋。

砕けたガラス。

散らばる紙の切れ端。


すべてが、彼の壊れた心を映し出しているかのようだった。


「……くそ……くそっ……!」


歯を食いしばり、悔しさに震えながら、それでもどうすることもできない。


「僕は……どうすればいいんだよ……」


夜は深く、静寂は冷たい。

世界はただ黙って、彼の苦しみを見下ろしているようだった。


やがて、夜が明ける。


漆黒の闇がゆっくりと薄れ、東の空に淡い朝の光が差し始める。


その光は、窓の隙間からこぼれ落ち、荒れた部屋の中を静かに照らした。


少年はゆっくりと身を起こし、ぼんやりと散乱した部屋を見渡した。


焦点の合わない瞳で、彼はぽつりと呟いた。


「……もういいや……前と同じに戻ればいい……」


重たい体を引きずり、ふらふらと立ち上がる。


扉へ向かって、ゆっくりと足を進める。


しかし——


階段を降りようとしたその瞬間、足元が崩れた。


バランスを失い、抵抗する間もなく、体が宙に投げ出される。


——落ちる。


朝の光が彼の顔を照らす。


けれど、彼は目を閉じた。


そして、そのまま深い闇の中へと沈んでいった——。



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