第43話 06 一輪の桔梗の花
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夕日の残光が街の地平線に降り注ぎ、金色の輝きが雲の隙間からこぼれ落ちる。
街の通りを淡く照らし、この都市に温かな色彩を帯びさせていた。
夕暮れ特有の風が空気に溶け込み、わずかに熱を帯びた余韻を残しつつも、夜の訪れを予感させるひんやりとした感触を含んでいる。
この街で過ごす最後の午後。
少年はすべての荷物を整え、しばらくその場に佇んだ。
ゆっくりと息を吸い込み、静かに口を開く。
「さあ、行こうか。」
セレナはわずかに首を傾げ、彼を見つめた。
琥珀色の瞳が夕陽の光を受け、柔らかな輝きを帯びている。
「どこへ?」
少年は落ち着いた声で、まるで何気ないことのように言った。
「ちょっと買いたいものがあるんだ。」
セレナは考え込むように彼を見つめ、腕を組みながらゆっくりと口を開く。
「……今日が何の日か、分かってる?」
少年はその言葉を聞いて、微かに微笑んだ。
その笑みはどこか軽やかで、淡々としている。
「分かってるよ。今日は、僕にとっての最後の日だ。」
そう言った後、一度言葉を切る。
少年は瞬きをしながら、まるで自分の感情を整理するかのように小さく息をついた。
「もっと怖がると思ってたんだけどな。」
「だって、死を迎えるなんて……普通なら恐ろしいはずだろ?」
彼の視線は街のあちこちをさまよい、ゆっくりと口元にかすかな微笑を浮かべる。
「でも、思ったよりも平気なんだ。」
「この一週間、いろんなことがあって……楽しい時間もあったから。」
少年は静かに息を吐き、ふとセレナの方へ顔を向ける。
「だから、行こう。」
「ネックレスを買いたいんだ。」
セレナは少し眉を上げる。
その声はいつもより低く、普段のような茶目っ気は感じられなかった。
「……ネックレス?」
彼女は小さく繰り返す。
その声には、どこかためらいの色が滲んでいた。
「なんでそんなものを?」
少年はすぐには答えず、遠くを見つめる。
その横顔はどこか静かで、深い思考の中に沈んでいるようだった。
「……前に話したことがあっただろ?」
彼の声はとても静かで、けれどそこには計り知れない重みがあった。
「僕のせいで……大切な人を、たくさん失ったんだ。」
風が吹き抜け、少年の服の裾を揺らした。
その風は、彼の言葉に滲んだ苦ささえも運んでいくかのようだった。
「僕には、生きる理由なんてないんだよ。」
「それでも……せめて、死ぬ前に何かを残したい。」
「ほんのわずかでも、償いのようなものを。」
セレナはそれ以上、何も聞かなかった。
ただ静かに、少年の隣を歩く。
二人がたどり着いたのは、街角の小さなギフトショップだった。
ガラスのショーケースには、さまざまなアクセサリーが並んでいる。
柔らかなライトがそれらを照らし、一つ一つの装飾が繊細な光を放っていた。
少年は足を止め、そっと目を向ける。
細く華奢なシルバーのチェーンに、上品なペンダントが揺れていた。
その中央には、一輪の桔梗の花が静かに咲いている。




