第43話 03 《風に舞う旅》
時間はいつの間にか静かに流れ、夕日の余韻が空を赤く染めていた。温かな金色の光が街路に降り注ぎ、穏やかでありながらも活気に満ちた景色を映し出している。午後のそよ風が優しく吹き抜け、屋台の食べ物の香ばしい匂いと、遠くから聞こえるミュージックファウンテンのせせらぎが混ざり合い、街全体がゆったりとした心地よい雰囲気に包まれていた。
少年は最後の荷物を片付け、ふと顔を上げると、セレナが満面の笑みで駆け寄ってくるのが見えた。彼女の瞳は期待に満ち、今にも飛び跳ねそうなほど輝いている。
「今日は私が行き先を決めるわよ!」
セレナは勢いよく宣言し、隠しきれないワクワクした声で言った。
少年は彼女の様子を見ながら、つい口元に微笑を浮かべた。
午後の陽射しが街を明るく照らす中、二人は最も賑やかな繁華街へと足を踏み入れた。そこでは色とりどりのネオンが交差し、人々が行き交い、街角のショップからは心地よい音楽が流れていた。ショーウィンドウには多種多様な商品が並び、光を反射してキラキラと輝いている。
「わぁ……あのカラフルな装飾、すっごく素敵!」
セレナは目を輝かせながら辺りを見回し、通りに吊るされた色鮮やかなライトに釘付けになっていた。まるで初めてこの街を訪れたかのように、何を見ても興味津々で、心を躍らせている。
少年はそんな彼女の横で静かに歩きながら、終始穏やかな笑みを浮かべていた。結局、セレナは何も買わなかったが、それでも二人は光に包まれたこの街の中心をゆったりと歩き、心地よい時間を過ごした。
帰ろうとした矢先、セレナがふと足を止め、遠くにそびえ立つ街一番の高層ビルを見上げた。その瞳には再び好奇心が宿り、何かを思いついたように微笑んだ。
「ねぇ、せっかくだから一番上まで行ってみない?」
彼女は興奮した様子で言葉を続けた。
「そこからなら、きっと最高の景色が見られるわ!」
少年は少し考えたが、今日の準備もすべて終わっているし、時間的にも問題はなかった。
「……まあ、いいけど。」
そう答えたものの、彼はすぐにある疑問を口にした。
「でも、どうやって登るんだ?」
するとセレナはにっこりと笑い、当然のように言った。
「そんなの簡単よ。私、飛べるから。」
少年は呆れたように彼女を見つめたが、よく考えればセレナなら何が起きてもおかしくない。もはや突っ込む気力も失せ、ただ静かにため息をついた。
「……もう何でもいいや。」
しかし、彼が反応する間もなく、セレナは突然後ろから少年の腰に腕を回し、ぴたりと身体を寄せた。
「お、おい! 何してるんだ!?」
少年は思わず驚いて声を上げた。
「もちろん、一緒に飛ぶために抱きついてるのよ!」
セレナはまったく悪びれる様子もなく、むしろ得意げに言うと、そのまま軽やかにジャンプした。次の瞬間、二人はふわりと宙へと舞い上がった。
冷たい夜風が耳元をすり抜け、下の街並みがどんどん遠ざかっていく。まるで重力から解放されたかのように、二人は静かに夜空を昇っていった。
やがて、街で最も高いビルの屋上に到達した。そこは豪華なカジノの最上階だったが、まだ建設途中で、未完成のまま放置されていた。辺りはひっそりと静まり返り、吹き抜ける風が鉄骨を揺らし、不気味な音を奏でている。
二人はそこに立ち、見下ろすように街を眺めた。
煌めく無数の光が交差し、まるで地上に広がる天の川のように輝いている。ガラスのビルに映り込んだネオンが反射し、幻想的な光景を作り出していた。
高所から見渡すと、街全体が巨大な水晶球のように感じられる。まるでガラス越しに覗き込んだ宝石箱の中のような、華やかで幻想的な世界が広がっていた。
セレナは満足げに腕を組み、目の前の壮大な景色を堪能しながら、ちらりと隣の少年を見た。
「どう?」
唇の端をわずかに上げ、楽しげに問いかける。
「この景色、すっごく綺麗でしょ?」




