第43話 02 「眠気が吹き飛ぶ」
翌朝、微かに冷たい朝の風が窓から部屋に吹き込み、淡い陽光が木製の床に降り注ぎ、まだら模様の影を映し出していた。
小さな少年は早起きし、手際よく食材を準備していた。包丁を器用に扱いながら、今日も屋台の仕込みを進める。キッチンには食材がぶつかる軽やかな音が響き、次第に新鮮な食材の香りが漂い始めた。
彼はふと手を止め、布団に包まっている少女の方をちらりと見やると、呆れたようにため息をついた。
「おい、起きろよ。もうすぐ太陽がケツを焼くぞ。」
ベッドの上のセレナは眉をひそめ、ぼんやりとした目を開けた。しばらく空中を漂うような視線をさまよわせた後、ぼそりと呟いた。
「ん……?ここ……どこだっけ……?」
彼女は眠たげに手を伸ばして目を擦りながら、昨夜の記憶を手繰り寄せる。
「たしか昨日の夜は……プールサイドで……それから……」
その瞬間、彼女はハッとしたように身を引き、驚いた表情で少年を見つめた。
「まさか……私が寝てる間に、何か変なことしてないでしょうね?」
警戒心を露わにしながら、彼を疑うような目つきでじっと睨む。
少年はその言葉に口元をぴくりと引きつらせ、淡々とした口調で答えた。
「……俺がそんな奴に見えるか?」
彼はわずかに間を置き、彼女をじっと見つめながら言葉を続けた。
「それに、お前なら俺のこと、よく分かってるはずだろ?」
そう言うと、用意していた食材を脇に置き、手を軽く払って話題を切り替えた。
「さあ、食材の準備も終わったし、そろそろ仕事に取りかかるぞ。」
セレナはしばらく彼を見つめた後、面倒くさそうに大きく伸びをし、再び布団の中へと潜り込んだ。
「まあ、確かに……あんたにはそんな度胸ないかもね。」
あくびをしながらごろりと寝返りを打ち、ふわふわの枕に顔を埋める。
「でも今は……すごく眠い……仕事したくない……」
彼女の声は徐々に小さくなり、再び眠りに落ちそうな気配を見せる。
だが、少年はそんなこともお見通しだった。
「ふーん、そうか……なら、仕方ないな。」
少年は不敵な笑みを浮かべると、そっと脇に置いてあった水の入ったバケツを手に取った。
「いいか、目を閉じろよ。口も開けるな。」
「え?なに――」
セレナが状況を理解する間もなく、少年は電光石火の如く、バシャァアアアッと冷水を彼女にぶちまけた!
「――ひゃぁぁぁっ!?」
氷のように冷たい水が頭から降りかかり、一瞬にして彼女の髪と服をびしょ濡れにする。冷気が全身を駆け巡り、彼女は一気に目を覚ました。
セレナはガバッと跳ね起き、濡れた髪を払いながら震え声で叫ぶ。
「なっ……何するのよあんた!!?」
少年は水の入っていたバケツを置き、腕を組んで落ち着いた様子で言い放つ。
「お前が"眠くて仕事したくない"って言ったんだろ?」
彼は涼しい顔で肩をすくめる。
「これが一番早く目を覚ます方法だ。」
セレナは口を開きかけたものの、あまりの理不尽さに言葉が出てこず、ただ怒りのこもった目で睨みつけた。
「……いいわ、覚えてなさいよ。」
彼女はびしょ濡れの袖をぎゅっと絞り、ベッドを叩きながら宣言した。
「罰として、今日は一日中、私を一番楽しい場所に連れて行くこと!たっぷり遊ばせてもらうからね!」
少年は肩をすくめ、気楽な笑みを浮かべた。
「ああ、いいぜ。約束するよ。」
こうして二人は身支度を整え、仕事を開始した。
贅沢な雰囲気が漂うこの街では、たった半日働いただけで、普段の二倍以上の収入を手にすることができた。
少年は手元の金を数えながら、呆れたように微笑む。
「いやぁ……金持ちってのは、本当に金持ちだな……。」
セレナはすっかり乾いた髪を揺らしながら、のんびりと屋台の脇にもたれかかると、得意げな笑みを浮かべて言った。
「それでいいじゃない。これで、今日は思いっきり遊べるわけだし。」




