第42話 16 古びた通行証
「どうやら、前にお前を召喚した人間は、俺と性格が似ていたみたいだな。」
少年は顔を上げ、思案するようにセレナを見つめた。口元にはかすかな笑みが浮かび、その声色にはどこか揶揄の響きがあった。
「だけど……お前の計画、意外と悪くないかもしれない。」
彼はそっと額に指を当て、コツコツと軽く叩く。何かを考え込むように目を細めると、瞳の奥に深い光が宿った。
「それに、これはお前の退屈しのぎになるだけじゃなく、俺も金を稼いでずっとやりたかったことができる……つまり、一石二鳥ってわけだ。」
声のトーンが少し下がる。まるで、この言葉が彼の胸の奥にしまわれていた何かを掘り起こしたかのようだった。
「ただ……まさか、こんな簡単なことに今まで気づかなかったなんてな。」
そこまで言って、ふと彼は言葉を切る。そして、何かに気付いたように目を瞬かせた。
「とはいえ、問題は宿泊場所だな。」
「『不滅都市』に着いたはいいけど、泊まる場所はどうするんだ?」
「聞いた話じゃ、あそこの宿はとんでもなく高いらしい。一日稼いだ金の半分以上が宿泊費に消えるとか……」
「こんなんじゃ、いったいいつになったら十分な金が貯まるんだよ?」
少年は腕を組み、眉間に皺を寄せた。その表情には、普段あまり見せない真剣な悩みが浮かんでいた。
「まさか……俺たち二人で路上生活なんてことにはならないよな?」
頭を悩ませる少年の肩を、セレナが突然ぽんっと軽く叩いた。
「ふふん、大丈夫よ。とっておきの手があるんだから。」
彼女は自信満々の表情でそう言うと、自分の服の中をごそごそと探り始めた。
「うーん……これだったかな……違う、これも違う……あれ、これは誰かにもらったやつだし……」
彼女は小さくぶつぶつと呟きながら、次々と何かを引っ張り出しては元に戻す。その動きは次第に慌ただしくなり、眉間にしわを寄せる姿は、まるでなくした宝物を探しているかのようだった。
「えーっと、もしかしてこれ?……違うな、確か金色だったはず、銀色じゃない……」
「……あっ!これだ!!」
突然、彼女は声を上げた。そして、服の中から一枚の金色のプレートを取り出したのだ。
プレートは陽光を浴びてきらめき、その表面には古めかしい文字が刻まれていた。それはまるで、遥か昔の歴史を語る遺物のように見えた。
少年は瞬きをし、興味深そうに尋ねる。
「二つ聞きたいことがある。まず、これは何なんだ?まさか高値で売れるものなのか? それと……お前の服の中って、なんでそんなに色々入るんだ?」
セレナはその言葉に、ふんっと鼻を鳴らしながら誇らしげにプレートを掲げた。
「違う違う、これはお金にはならないわよ。」
「だって、ここに書いてあるでしょ?『通行証』って。」
彼女はプレートの縁をなぞりながら、思い出すようにゆっくりと口を開いた。
「実はね……ここに来たとき、なんとなく見覚えがある気がしてたの。」
「それで、ようやく思い出したんだけど……」
彼女の声が一瞬だけ途切れ、目の奥に何か遠い記憶がよぎった。




