第42話 14 手助けできないこと
「さっきから話してばかりで気づかなかったけど……。」
少年は一瞬考えた後、隣のマントを羽織ったセレナをちらりと見た。
そして、軽く肩をすくめながら答える。
「まあ……最近できた友達、ってところかな。」
「彼女、家もなくて困ってたんだ。たまたま道端で会ったから、少し助けてあげてさ。」
彼は少し口元を緩め、続ける。
「そのお礼に、今は僕の仕事を手伝ってもらってる。」
「昨日たくさん売れたのも、半分は彼女のおかげなんだ。」
店主は納得したように頷き、安堵したような笑顔を浮かべる。
「なるほどな、それはよかった。
お前がちゃんと誰かと繋がってるなら、俺も安心したよ。」
彼は少年の肩を軽く叩き、真剣な表情で言う。
「これからも、困ったことがあれば絶対に俺たちに言えよ。」
「お前のことなら、いつでも助けるからな。」
—
少年は市場を歩き回りながら、必要な食材を揃えていった。
帰る頃になり、セレナがふと彼を横目で見つめ、少し不思議そうに尋ねる。
「……この街の店主たち、みんなあなたにすごく優しいのね。」
彼女は腕を組み、考え込むように呟く。
「もし本当に助けが必要なら、彼らに頼めばいいんじゃない?」
「もしかしたら、あなたの言う"心のしこり"とやらも解決できるかもしれないし?」
少年はその言葉に、ほんの少しだけ動きを止めた。
だが、すぐに小さく首を振る。
彼の声は、呟くように静かだった。
「……助けてもらえることも、もちろんある。」
「たとえば、食材を安く買わせてもらうとかね。」
彼の歩みがふと止まり、遠くに広がる朝の光を見つめる。
その声は、どこか寂しげな響きを帯びていた。
「でも、どれだけ親切にしてくれても……どうしても、助けられないことがある。」
そっと息を吐くと、微風が彼の髪を撫で、言葉にならない想いを連れていく。
「……そして、そういうものほど、一番致命的なんだ。」
そう呟くと、少年はまた歩き出した。
まるで、それ以上は語りたくないとでも言うように。
「さあ、行こう。」




