第42話 13 鏡の中の鏡。
朝の光が差し込み、街はまだ完全に目覚めていない。
ひんやりとした朝の空気が、新しい一日の始まりを感じさせる。
少年は懐から一枚のマントを取り出し、それをセレナの前に差し出した。
少し真剣な口調で言う。
「これ……着てくれる?」
セレナは眉をひそめ、手にしたマントをじっと見つめると、口元に皮肉めいた笑みを浮かべた。
「これは何? まさか、この街では買い物をするのにマントを着るのが習慣なの?」
彼女は軽く顎を上げ、冗談めかした口調で続ける。
「もしそうなら、ずいぶん変わった風習ね。」
少年はため息をつき、少し困ったように説明を始めた。
「そんなわけないだろ。ただ、君の正体を隠すためさ。」
彼は手元の買い物リストを整えながら、さらに言葉を続ける。
「僕が買い物に行くと、絶対に君のことを聞かれると思うんだ。
ましてや、君の見た目はどう見ても人間には見えないし……。変な質問ばかりされるに決まってる。」
少年は少し眉を寄せ、昨日の出来事を思い出したかのように軽く首を振った。
「そういうのに答えるのは面倒だし、昨日みたいに、余計なことは避けられるなら避けたいんだ。」
セレナは肩をすくめ、特にこだわりもない様子で返した。
「まあ、いいわ。あなたの言う通りにしましょう。」
—
朝の市場は次第に活気を帯びていく。
新鮮な野菜や果物の香りが空気に混じり、小さな商人たちは次々と店を開き、威勢のいい掛け声が飛び交う。
二人が並んで市場に入ると、すでに多くの人々が食材を選んでいた。
「おや、今日はずいぶん早いじゃないか。」
馴染みのある声が聞こえ、店の主人が顔を上げた。
少年の姿を確認すると、彼は満面の笑みを浮かべながら声をかける。
「お前、いつもはもっと遅く来るのにな。
それに、昨日は随分と商売がうまくいったらしいな。調子が上向いてきて、本当に嬉しいよ!」
少年は少し驚いたように瞬きをし、それから薄く微笑んだ。
「……ありがとうございます。ずっと、お世話になっています。」
店主は手を振り、大らかに笑った。
「そんなに礼を言うなよ! 世話なんて大したことはしてないさ。」
彼は並べられた野菜や果物を見渡しながら、豪快に言った。
「今日は、ちょっといい食材を買いに来たんだろ?
だったら特別に、今日は全品半額にしてやるよ! 昨日の成功を祝ってな!」
少年は一瞬驚いた後、慌てて手を振った。
「いえ、そんな……そこまでしていただくのは申し訳ないです。」
しかし、店主は気にした様子もなく、笑いながら手を振った。
「いいから、いいから! たまには俺にもお前を助けさせてくれ。」
彼の声はふと穏やかになり、どこか遠くを見つめるような表情になる。
「……あいつがいなくなってから、お前はずっと苦労してきたんだろう? せめて、これくらいはさせてくれよ。」
少年はほんのわずかに目を伏せた。
この話題には触れたくない、そんな空気が伝わってくる。
店主は彼をじっと見つめた後、ふと隣の存在に気がついたように目を向ける。
「そういや、お前の隣の彼女は誰だ?」




