第42話 08 無数の平凡な日々の中で、特別な一日。
通りはまだ賑わいを見せ、屋台の前には人々が絶えず集まっていた。
少年とセレナは忙しさのあまり、昼食をとる暇もなく鍋を振り続けていた。
「セレナ、あの調味料を取ってくれない?」
少年は鍋の中の食材を素早く炒めながら、何気なく言った。
「はいはい――」
セレナが手を伸ばそうとしたその瞬間、コンロの炎が突然勢いよく燃え上がった。いつもの何倍もの高さになり、彼女は思わず声を上げる。
「ちょっ、何これ!? 火がめちゃくちゃ大きくなってる! 早く消さないと!」
「ちょっと待って! 水はやめろ!」
水をかけようとする彼女を見て、少年は慌てて止めた。声には明らかに焦りが滲んでいた。
「ええ……面倒くさい……」
セレナは不満げに水を元の場所へ戻し、燃え盛る炎を睨みつけた。
次の瞬間、また別の声が響く。
「いったー……指切った……」
セレナは眉をひそめながら、軽く手を振って痛みを紛らわせる。
「くそっ、こんな時に……念力で勝手に包丁が動く魔法とかないの?」
少年は小さくため息をつき、彼女の指の小さな傷をちらりと見た。
「もういいよ。次は俺がやるから、少し休んでて。」
そう言いながらも、彼の手は止まることなく流れるように動き続けた。セレナは仕方なく、壁にもたれかかって彼の仕事ぶりを見つめる。
二人はそのまま夜遅くまで働き続け、最後の客が去るとようやく片付けに取り掛かった。
——気づけば、町はすっかり夜の闇に包まれていた。
屋台を元の場所に戻し、鍵をかける。帰路についた時には、すでに空は漆黒に染まり、通りにはまばらな灯りだけが寂しげに揺れていた。
「それ、何持ってるの?」
セレナは少年の手元を見て、何気なく尋ねた。
「食べ物だよ。安心しろ、売れ残りや客の食べ残しじゃなくて、俺がわざわざ取っておいたやつだ。」
少年は淡々と答えた。
セレナは袋の中を覗き込んだ。昼間の料理とは違う肉がいくつか入っており、濃厚な香りがふわりと立ち上る。
「ふーん……なんか昼間の料理と違うね? 肉の種類も違うみたいだし、結構いい匂いする。」
少年は答えず、部屋の窓を開ける。夜風が静かに吹き込み、二人はいつものように簡素な部屋へと戻った。
少年は窓辺に腰を下ろし、袋の中の食材を見つめながら、少しぼんやりとした口調で言った。
「これは……俺がまだこんなに落ちぶれる前に取っておいたものだ。」
「今思えば、あの頃は夢みたいだったな……」
彼はかすかに笑い、どこか遠くを見つめるような表情を浮かべた。




